研究の限界、ビジネスの可能性
しかし、鈴木はロンドンの大学院に進学して、二つの意味で挫折を味わう。
ロンドンの大学院のコースメイトと授業後に公園で飲みながら話している様子
一つ目はシミュレーションの限界を感じたことだった。人の動きは全て数値化できる、という前提で研究を重ねていたが、そこまで単純なものではないのではない、と思い始めたのだ。
二つ目は、毎日のシミュレーションに夢中で、どういう都市にするべきか、というビジョンに欠けていたことだった。ゴールがもう少し自分の中で明確になっていれば、より良い都市開発に活かせるのではないかと考え始めた。
将来、音楽の趣味や好きな匂いなど、全く新しい基準で今まで見たことのない都市の地図を描くことができれば、さらに都市は面白くなるのではないか。その始まりとして、Placyを開発することを決めた。
ロンドンの屋上で友達と街を眺めていた時
偏見にまみれた地図
鈴木が都市を面白くするうえで一番に解決したい問題は、都市の均質化だ。数々の都市を自分の目で見てきて、「渋谷でもロンドンでも同じような都市になっている」と鈴木は感じていた。マクドナルドもスタバもH&Mもあって、便利である一方、個性がなくなっていく。
「それならば、自分たちのサービスによって、『偏見にまみれた都市の地図』を作りたい」。そう思った。
鈴木は、取材の最後に自分の留学体験を語った。オーストラリアに一緒に留学した友達が、当時、大きな夢を語っていた。こんな会社を作りたい、こういうことをしてみたいなどと。しかし、留学から戻ると、彼はリクルートスーツを着て、一度は思い描いた夢などなかったかのように、就活の道に進んだ。それを「怖い」と鈴木は感じたのではないか。
就活によって、自分の友達がどんどん「均質化」されていく。その怖さを実感した鈴木だからこそ、Placyというサービスは考えられたのだと感じた。このサービスは、都市だけでなく、様々なところで進む「均質化」への警鐘となるかもしれない。
共同創業者の上林と鈴木