「その均質性はますます加速しているのではないか」。そう語るのは、9月16日に音楽で人と都市をつなぐ地図アプリ「Placy(プレイシー)」をローンチした鈴木綜真だ。
鈴木は「南米は、ほとんどの国を訪れた」と言うほどの旅好き。オーストラリアやスペイン、イギリスでは、実際にその地に住んだ経験もある。数々の都市を見てきた彼は、いま世界の「都市の均質化」に疑問を感じているという。
そんな鈴木が、なぜ音楽に着目したのか。彼の人生を顧みながら、Placyを始めた経緯を紐解いていこう。
音楽で都市と人をつなぐサービス
鈴木が大学からの友人で、共同創業者の上林悠也と始めたサービスPlacyは、自分の好きな音楽をもとに、音楽の趣味が似ている人が行っている場所を発見することのできる地図アプリだ。音楽ストリーミングサービスのSpotifyと連携することで、自分が普段聴いている音楽を読み込ませることができる。すると、自分と音楽の趣味が合う人が行きそうなカフェやレストランなどのお店をオススメしてくれる。
行きたい場所を決めるときに、レビューや口コミだけでなく、自分の趣味や感性を勘案して、地図で案内してくれるというのが特徴だ。
お気に入りの音楽に合わせたカフェをオススメしてくれる
Spotifyに登録されている曲には、踊りやすさ、テンポなどの数値が記録されている。一方のPlacyは、場所の雰囲気や立地を数値化。それをSpotifyの数値と掛け合わせることで、場所をリコメンドする。この数値化されたデータは利用者が多ければ多いほど、より正確性が増すようになっている。
自分だけのために作られた唯一無二のマップは、レビューや口コミで通常見るようなものとは、異なる風景を見せてくれるのだろう。
プロフィールにお気に入りの曲を登録しておくと、検索画面を開かずとも自動的に自分に合った場所が表示される。同じ趣味の人たちが集まるため、初対面での会話も入りやすくなる。
就活から逃げて、カサ・ミラにたどり着いた
カサ・ミラの一室にて
なぜ、こんなサービスを始めたのか。意外にも、就活が起点となっていた。
当時、京都大学に通っていた鈴木は、就活シーズンになって漠然とした不安を抱くようになった。何をしたいかがはっきりしていない状態で、このまま就活しても、結局何をやりたいか見つからないままになるのではないか。そう考えた彼は、海外へ行くことを決意した。
目指した先は、スペインのバルセロナ。サグラダ・ファミリア教会をはじめとして、数々の独創的な建築を手がけたアントニ・ガウディの作品が、市内の至る所に残る街だ。
鈴木は、縁があって奇跡的にガウディの作品の一つである集合住宅、カサ・ミラに住むことになった。世界遺産に指定されているその建物の窓から、毎日通りゆく人々の動きを観察していた。
なぜこの人は右に行ったのか、このお店に入ったのか。こっちの方が明るかったからかな。あっちの方が良い匂いがしたからかな……。
大学で勉強していた物理学の知識を使って、独学でコーディングを始めた。まさか自分のちょっとした疑問が類型化できると思わず、夢中で人々の動きを追った。そのエリアは、バルセロナ全域まで広がった。
鈴木が、その後、イギリスの大学院で都市工学について学ぼうと思ったのは、このカサ・ミラの体験がきっかけとなった。