日本流・ベンチャーエコシステムの分岐点
──米国などと比べると日本のベンチャー育成エコシステムはまだまだ、と感じますが、追いつくにはそれ相応の時間が必要ということでしょうか?
凄くよく覚えている出来事があって、阪神・淡路大震災(1995年)のあとにベンチャーとNPOが一斉に活性化したんですよ。プロフィットとノンプロフィットって相反しているように見えますけれど、両方とも自発的なものだという点では似ているんですよね。
で、そのあとにシリコンバレー式のベンチャーエコシステムモデルを作ろうという運動があったんですけど、その時にシリコンバレーのベンチャー育成に長年携わっていたスタンフォード大学のミラー先生という方をお招きして、お話を伺ったんです。僕も大学人なので、大学を核としながら「どうやればいいんですか?」と質問したら、色々教えてくださったうえで「でも、これ、30年かかるよ」って言われたんですよ。
──30年ですか!
「僕ら、1960年くらいからやっていて、やっとここまで来たんだよ」って。
その時に「30年かかるよ」と言われたことをやり始めて、いまようやく20年経ったところなんです。20年前に比べるとだいぶマシですけど、やっぱり遅れてますよね。特にここ10年くらいのシリコンバレーの進展があまりに急激なので、ギャップはむしろ広がっています。
追いつくためには、日本なりのやり方を編み出していく、そんな時期に差し掛かっていると思いますね。
──起業家が出現し、成功事例が生まれ、それを受けてまた新たな起業家がどんどん出てくる……。決して慌てることなく、素養を育んでいく。長い道のりですね。
最近つくづくミラー先生のおっしゃっていたことが分かるようになってきたんですけど、やっぱりベンチャーエコシステムには人脈やネットワーク、蓄積がなきゃ駄目なんですよね。加えて、上の人、つまり起業家として成功した人が、これからスタートアップを立ち上げようとする後輩に「お前、頑張れよ」と活を入れていく。この流れがようやく回り出したなーと思ったのが3、4年くらい前です。
学生のような若い子に慌てるなと言ってもなかなか伝わりにくいものですが、長年このエコシステムの変遷を見てきた私としては、ブームがあろうと決して慌てることなく、タイミングが来たときに自然に実行できるだけの最低限のスキルはつけておこうね、と意識して伝えています。学校の先生にできることはそういうことだと思っていますね。