ビジネス

2019.09.13

人脈、ネットワーク、蓄積がスタートアップ・エコシステムを形成する|慶應義塾大学 國領二郎

慶應義塾常任理事を務める國領二郎教授

SFC(慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス)で総合政策学部長、研究所長などを歴任し、現在は慶應義塾常任理事を務める國領二郎教授。

長らく慶應義塾大学で起業家の育成に携わってきた國領教授に、教育の現場から見た起業家としての心構えや、日本のベンチャーが世界で戦い抜いていくための秘訣についてドリームインキュベータの小縣拓馬が聞いた。(全6話)※本記事は2017年8月に実施したインタビュー内容を基に作成しております。

IT社会を突き動かす「自律的な小ユニット」

──起業家の持つ使命というか、起業家はこの社会においてどういう役割を果たすと思われますか?

私は初めからベンチャーを推していたわけではなくて、大手企業だろうが中小企業だろうが情報化・IT化が進展すればいいなと考えていました。

ただ、IT関連のビジネスを見れば見るほど大企業向きではないんだなと感じたんですよね。小さな会社がスピーディーに色んなことを試行錯誤していく中から、良いものだけが選りすぐられて生き残っていくんだな、ということを痛感したんです。

その現象からわかるように、ITの本質というか凄さというのは「創発」という言葉にあるように、多彩な人がコラボできる空間を作ることで予期しなかった新しい価値がどんどん生み出されるところだと思うんです。

たとえば、ある日突然誰かがApp Storeに奇抜なアプリを出してきて、それがあっという間に普及し、そのアプリと連動する別のアプリが出てきて、お互いにどんどん価値を高め合う、みたいな。まさに創発現象ですよね。

それがITの本質であると考えた時に、大企業のように「あらかじめ計画を立てて、この利便性を提供するためにこれとこれを準備して、計画通りに粛々と開発する」ことはITにはそぐわないと思ったんです。

なので、創発的なモデルをきっちりと動かしていこうと思うと、自律的に動く小ユニットのような存在が必要で、そのためにはベンチャーを育てることが重要だと考えたわけです。

──凄い先見の明だと思います。「小ユニットがスピーディに動いて創発現象を起こしていくのがいい」と考えた直接のきっかけは、何かあったんでしょうか?

その頃はまだWindows95が出る前くらいで、Microsoftもベンチャーと呼ばれていたような時期です。

──本当に黎明期ですね。

そうですね。IBMなどの大企業がちっちゃな会社に振り回される、ということが起こり始めた時期だったので、これは凄いことだなって思ったのがきっかけかもしれません。

「なぜそれが起こってるんだろう?」「この現象はこれからどのようなことを起こす可能性があるんだろう?」と、先ほど言ったように「科学的に」一歩引いて考えていました。

日本は当時は本当に大企業主導の世界でしたが、イノベーションが大企業から出てくるとばかり思っていると、この国は立ち行かなくなるだろう。そういう考えのもとに「日本でもベンチャー育成をもっと頑張ろうよ」と言い始めたのが1990年代半ばくらいですね。
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文=小縣拓馬 提供元=Venture Navi powered by ドリームインキュベータ

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