書き散らかして、意外な発見。ストーリー・プロトタイピングの提案

イラストレーション=尾黒ケンジ

「ストーリー」(物語)を、たくさん「プロトタイプ」(試作)することで未来を探る。ポイントは数と自由度の高さ。スープ専門店「Soup Stock Tokyo」も物語から生まれた。企業の企画会議に風穴を開けるためにも、まずは紙とペンを手にとって「書き散らかして」みよう。


2歳になった息子が、便利な言葉を覚えました。 それは「べ──だ」。
 
まだ文章を喋れないので、不満や怒りをすべてこの一語に込めます。思い通りにいかなくて「べ──だ」、兄弟ゲンカをして「べ───だ!」、アニメを観ている途中にチャンネルをかえられて「べ───────だ!!」。

息子はこれから、たくさんの言葉を覚えていくでしょう。言葉を知ると文章が書けるようになり、文章が書けるとストーリーを紡げるようになります。「ストーリー」は、コミュニケーションの大きな武器です。

ビジネスの世界には「ストーリー」や「シナリオ」を使ってキャンペーンを考えたり、商品を開発したりする手法が多くあります。例えば「PRリリース」を先に書いてみて、逆算しながらキャンペーンを設計する。ターゲットのペルソナを設定して「カスタマージャーニー(顧客が商品やサービスを知り、購買するまでの『行動』『思考』『感情』などのプロセス)」でタッチポイント(接点)を見つける。起こりうる未来の可能性とリスクをシナリオに書き出して、解決策を考える「シナリオ・プランニング」もそのひとつです。

どれも効果のある手法ですが、PRリリースをいくつも書くのは大変ですし、カスタマージャーニーもたいていは数タイプの検証。シナリオ・プランニングも4象限に整理するメソッドです。技術やアイデアの可能性を考えるとき、もっと短時間に、たくさん試行錯誤できる方法があれば……。

そこで「ストーリー・プロトタイピング」のご提案。新しい技術やアイデアが生まれたとき、どんな人のために、どんな形で商品化すれば喜んでもらえるか? みんなをハッピーにできるか? 「ストーリー」(物語)を、たくさん「プロトタイプ」(試作)することで未来を探るやり方です。

ユーザー像も性別も年齢も、既存のイメージに縛られず、思いつくストーリーを片っ端から書き出していきます。たとえば「24時間、味が変わらないガム」をつくる技術が生まれたとします。24時間も味を楽しめることはもちろんすごいことですが、あえて開発者が狙った角度じゃないところから光を当てます。

例えば、

・長時間、味を楽しめる→緊急時の防災ガム?
・24時間経つと味が変わる→時計がわりのガム?
・噛むたびに成分を出す→継続的な栄養補給→登山用ガム?
・変わらない味→永遠の愛のメタファー→プロポーズガム?
・24時間、顎を動かす→エネルギーが生まれる→ガム発電?
・噛む枚数が減る→ガムを捨てる人が減る→街をキレイにするガム?
次ページ > 強みは、なんといっても数。

文=松原勇馬 イラストレーション=尾黒ケンジ

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