できるだけ多く「ストーリーの骨子」を考え、300〜500文字ほどの物語に仕立てます。真面目な企画会議なら「え、なに言ってるの?」と相手にされないようなストーリーもウェルカム。書き手のイマジネーションが膨らむにつれて「ガムにもそんな可能性があったのか!」とか「若者向けと思っていたが、シニアの女性にウケそう!」とか「まったくジャンルの違う企業ともコラボできそう!」とか。想像もしていなかったターゲット像や商品へのニーズ、使用シーンが見えてきます。
「ストーリー・プロトタイピング」の強みは、なんといっても数。自由に発想を広げることで新しい発見につながります。私のケースでは、ある商品の根っこを見つける仕事に、CMプランナーやコピーライターと一緒に取り組みました。日ごろからクライアントのオリエンに「企画コンテ」や「キャッチフレーズ」を打ち返すトレーニングを積んでいるので、案の数にもスピードにも自信があります。性格も趣味も得意分野も違う3人のクリエーターが100案近いストーリーを考案し、仕事を次のステージに進めるお手伝いをしました。
それから「ストーリー・プロトタイピング」は何よりおトク。AI搭載○○、新薬配合○○、世界初○○……実際にプロトタイプをつくれば莫大なお金がかかりますが、「ストーリー・プロトタイピング」には(それほど)お金がかかりません! 紙とペン、パソコンやスマホがあれば、時間が許す限りいくらだって、ストーリーの試作品を作れます(書けます)。
いま、商品を売るためのコミュニケーションは無数にあり、「広告」はあくまでそのひとつの手段です。そんな時代にこそ「ストーリー・プロトタイピング」が広がれば、広告クリエーター(=ストーリー開発のプロ)と企業(=モノづくりのプロ)の「広告じゃない新しい接点」が生まれるのではと期待しています。広告業界だけではなく、小説家、ライター、詩人……言葉を生業にしている方々にも活躍の場を生み出す可能性があるはずです。
商品の開発なんかやったことがなくても、理系じゃなくても、研究者じゃなくても、「ストーリー・プロトタイピング」なら、誰でも物語で試作することができます。そう考えたら、ワクワクしませんか? 文字を書くのにお金はかかりませんし、どんな未来だって自由に想像することができますからね。
電通Bチーム◎2014年に秘密裏に始まった知る人ぞ知るクリエーティブチーム。社内外の特任リサーチャー50人が自分のB面を活用し、1人1ジャンルを常にリサーチ。社会を変える各種プロジェクトのみを支援している。平均年齢36歳。合言葉は「好奇心ファースト」。
松原勇馬◎電通Bチームゲスト。第1BP局所属。クリエーティブな視点と手法を生かして「新しい仕事づくり」に取り組む。現在、名古屋をベースにさまざまな[人、もの、コト]に出会い中。