先日、デンマーク出張のついでにフィンランドの首都ヘルシンキに寄った。“サウナの聖地”で本場のフィンランド式サウナを体験してみたかったのである。
日本の風呂に湯船があり、かつ温泉や銭湯が全国に点在するがごとく、フィンランドも一般家庭にはプライベートサウナ、アパートには共有サウナ、街には公共サウナが存在する。来客用サウナを有するオフィスも珍しくなく、商談や社員の福利厚生にも利用されているらしい。そればかりか、官庁、各省、市役所、学校、病院などの公共施設から空港のラウンジやクルーズ船まで至るところに設置されており、その数、フィンランドの人口550万人に対して、なんと300万以上! 日本人の風呂愛に勝るとも劣らないサウナ愛と言えよう。
実際、フィンランド人のサウナと日本人の風呂には共通点が多い。オルパナ駐日フィンランド大使は「サウナの中は皆が平等で、上下関係はない」と言っているが、サウナだろうが風呂だろうが、確かに人は裸では虚勢や見栄を張れないし、肩書にもなんら意味はない。文字通り、“裸の付き合い”でしかない。また、人と非常に近く隣り合わせる空間にいるわけで、互いを慮ったり、順番を守ったり、品位を保ったりするという礼儀も自然発生的に生まれてくる。
加えて、フィンランドのサウナ推進組織はサウナが提供する特長を
1.五感で感じること
2.自分自身に意識を向けること
3.リラックスすること
4.身体を清潔にすること
5.心身を健康にする
とまとめているが、これは湯道(連載第40回に詳しい)にも通じるものがあると、個人的に感じていた。
原始的なサウナに魅了される人々
ヘルシンキのサウナ三昧に話を戻そう。滞在は1日のみで3軒しか行けなかったのだが、その中でいちばん面白かったのが「SOMPASAUNA(ソンパサウナ)」だ。
市の東に位置する海を埋め立てて都市開発をしている、東京でいうお台場みたいな場所の突端に、そのサウナはある。2011年夏、廃棄されていた小屋を修繕し、ストーブを持ち込んでサウナとして使い始めた人がいた。そこにだんだんと人が集まってきたのだ。寄付やアルミ缶・ペットボトルのリサイクルで得た小銭で、誰かが屋根に煙突を立て、誰かが薪代わりの建材廃棄物を切る道具を用意した。更衣室やシャワー室、トイレ、貴重品ロッカーはないが誰でも無料で使える、という原始的なサウナは多くの人を魅了。13年秋には「ソンパサウナ社団法人」が設立され、18年には新たに大小2つのサウナ小屋が完成した(最初の小屋は倉庫として利用中)。
その際に簡易式トイレはひとつできたものの、更衣室やシャワー室は相変わらずないので、今も訪れた人は小屋の外で着替え、テーブルの上などに荷物を置き、サウナを楽しむ。ちなみに男女共用、裸でも水着でも利用可。24時間営業だが、「最初の人がストーブを点け、最後の人が清掃する」というルールが遵守され、時間によっては入れないこともある。僕が訪れたときは全裸のおじさんが食事中で(笑)、「夕方まで掃除をするからそれまで待ってほしい」と言われ、後ろ髪を引かれながら次のサウナに向かった。