ビジネス

2019.09.19

女性投資家のランチから生まれた子育て支援ファンド

黄春梅(写真左)、土岐泰之(中央)、高塚清佳(右)


働きにくさを解決する

最初は自分たちが事業者になって保育サービスを展開することも考えた。お昼休みにランチミーティングを重ね、具体的なビジネスプランを練った。しかし、「起業しても1社では社会に与える影響は限定的。本業のファンドなら、よりたくさんの会社を支援できる」(黄)と、インパクト投資のファンド立ち上げに舵を切った。投資家らしく、投資を通して社会を変えようとしたのだ。

ただ、壁は高かった。当時、インパクト投資をやっている邦銀は皆無。周囲に説明しても、「寄付との違いは何か」と容易に理解を得られなかった。経済的リターンを実現したインパクト投資の海外事例を調べ、自分たちの強み・弱みを分析するなど、粘り強く改善を繰り返し、最初の提案から4カ月後にやっと承認が得られた。

子育て支援ファンドは、17年1月に組成。もともとユニファは投資候補リストに入っていたが、ファンドの存在をメディアで知ったCEOの土岐泰之からも打診があった。2人と話したときの印象を、土岐はこう語る。

「私たちがこだわったのは、出し手の志。その点、お2人は母親目線で事業に共感してくれました。一方で、数字で表しづらい部分をどう企業価値につなげていくのかという投資家の目線も持っている。両方を一気通貫しているところが心強かった」

1号ファンドは順調で、いまのところ当初想定通りのリターンを見込んでいる。その実績を引き提げて、今年6月、対象を介護分野まで広げた2号ファンドも組成した。2号ファンドは社会的投資推進財団、みずほ銀行と共同運営、外部投資家もLP出資に参加。インパクト投資の輪は着実に広がっている。

2人の活躍をきっかけに、後に続く女性投資家は出てくるのか。最後にそう水を向けると、熱く語り始めた。

「女性投資家が少ないのは、投資の面白さを知る機会が少ないから。私自身が教える機会を得られれば、投資家の醍醐味を伝えたい」(黄)

「残念ですが、いまのところ女性のほうが社会の不合理を感じる機会は多い。逆に言うと、女性のほうが課題意識を投資に活かすチャンスも多いということ。今後は女性投資家の層が厚くなるといい」(高塚)

ビジネスプランを練っていたランチタイムも、こうやって語り合っていたのだろう。未来を語るときの2人の表情はいきいきとしていた。


黄春梅◎新生企業投資・インパクト投資チーム・シニアディレクター。2017年1月、高塚とともに、インパクト投資チームを設立。国内の金融機関初のインパクト投資を行う「子育て支援ファンド」を立ち上げた。

高塚清佳◎新生企業投資・インパクト投資チーム・シニアディレクター。

文=村上敬 写真=ヤン・ブース

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