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エリック・ユアンは、ズームをフル活用して多くの人とミーティングを重ね、資金調達や営業活動を行っている。

今年4月に新たにナスダックへの上場を果たしたビデオ会議システムの「ズーム(ZOOM)」。ライバルひしめくビデオ会議システムの世界で、中国移民の創業者エリック・ユアンはいかにしてシスコやグーグルなどの競合とわたり合ってきたのだろうか。


「ズーム(ZOOM)」のCEO、エリック・ユアンが、歓声をあげる群衆に応える姿というのは、なかなかない光景だった。ユアンはナスダック証券取引所のオープニングベルを鳴らすと、照れたような笑顔から集中した顔つきになって宣言した。

「今日から、新たなゲームが始まります」

ユアンを知る人々にとって衝撃だったのは、彼がいかにしてその場に立つに至ったかではない。ユアンが物理的にその場にいたということだった。

ウェブビデオ会議ソフトを提供するズームの創業者として、ユアンは自らのアイデアを実践している。トップクラスのベンチャー投資家から資金を調達した際、実際に姿を見せたのは一度きり。出席した投資家全員がズームのアプリをダウンロードしていることを確認するためだった。IPO(新規株式公開)のロードショーでは、ある投資家向け昼食会に出席するためにカリフォルニア州サンノゼの本社からサンフランシスコまで約80kmの距離を出かけてはいったが、すぐに取って返して仕事に戻った。それ以外の人々は大物投資家であろうとなかろうと、ユアンとはズームを介したバーチャルな会見で顔を合わせただけだった。IPOのためのニューヨーク行きにしても、この5年で8度目の出張に過ぎない。

ユアンによれば、「ぜひ来社してほしい」という顧客は多い。

「ただ、『伺う前に、まずはズームで』と一度ビデオ会議をすると、それで十分となるのです」

ユアンのやり方はウォール街で評価され、ズーム(正式には「ズーム・ビデオ・コミュニケーションズ」)のIPO価格は1株36ドル(約3900円)に引き上げられた。同社の評価額は92億ドルとなり、ユアンは49歳にしてビリオネアとなった。さらに上場初日の株価が72%高と急伸して同社の時価総額は159億ドルとなり、その約20%を保有するユアンの純資産も32億ドルへと跳ね上がった。

すべてはズームのビデオ会議ツールのおかげだが、同社は新たな技術を開発したわけではない。既存の技術の使い勝手をよくしただけだ。エンジニアから創業者に転身したユアンが目指したのは、マンハッタンの役員用会議室で利用しても、中国の住宅のキッチンテーブルで利用しても同様にうまく機能するツール。クラウド上に構築され、40分以下の会議なら誰でも無料で開催できる「フリーミアム」モデルを採用し、素晴らしい数字を計上している。

前年比118%増の3億3100万ドルという年間収益を計上したズームは、黒字でIPOデビューを果たした極まれなテック系ユニコーン企業となった。

文=アレックス・コンラッド  写真=イーサン・パインズ  翻訳=木村理恵

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