ビジネス

2019.09.17

マイノリティが新たな価値 次世代スーパーダイバーシティ経営

ロサンゼルスで最も活気あふれる地区のひとつ、コリアタウンに「Asian4Asian That’s not Racist(アジア人のためのアジア人。人種差別ではありません)」という大きなデートサイトのビルボード広告が掲げられ、注目を浴びたのは2017年9月のことだ。

現在、EastMeetEast(以下、EME)は北米で最もアクセス数の高いアジア人向けデートサイトだ。中国人、フィリピン人、ベトナム人、韓国人、日本人ら会員数は17年から2年で4倍、創業(13年)以来成立したカップル数は報告ベースで12万人に達する。アジア系住民は、アメリカで最も伸び率の高い人口層であり、マーケットの潜在性は高い。昨年4月には新たに約4億円の資金調達を発表した。

EMEの特徴的な機能のひとつは、プロフィールのはじめに「Age Arrived」、すなわち、アメリカに来た年齢を書く欄があることだ。アメリカに移り住んだ両親から生まれた人は「0」となる。

昨年から米国の他にカナダやイギリス、オーストラリアなどにもサービスを広げるCEOの時岡真理子は、英語圏市場には共通点が多くあると話す。

「マイノリティの人種として、その国に生まれ育った人、幼い頃両親と共に移り住んだ人、大学で来て以来そのまま住んでいる人など、来た理由は似ています。さらに結婚する相手には親と母国語で話してほしい、食文化は同じであってほしい、といったニーズもとても似ています」

「FOB(Fresh off the boat)」とは最近になって渡米したアジア系の人々を指すスラングだが、EMEとパートナーを組んでアジア系アメリカ人の恋愛事情を街角で聞いて回る人気ユーチューバーの動画では、異性の好みを表す表現としてポジティブに使われている(同種の動画の全視聴回数は2800万回に上る)。多人数が参加できるライブ配信サービスも始め、滞在時間、アクセス数も好調だ。

高校まで兵庫県で生まれ育った時岡は、米国のリベラルアーツの大学を卒業後、日本オラクルに就職する。しかし、会計ソフトの販売で優れた営業成績を上げて会社に表彰されても「全くワクワクがなかった」と振り返る。社会課題を解決する仕事がしたいと会社を辞め、社会起業に強いオックスフォードへ。卒業後にロンドンで教育系モバイルアプリQuipperを共同創業(同社は15年、リクルートが48億円で買収)、13年ニューヨークでEMEを起業している。

マイノリティとして暮らすというのは、一度海外で生活したことのある日本人ならば共感できる、ある種の痛みを伴う経験である。残念ながら、アメリカ最大級のデートサイトOkCupidの14年の調べによると、アジア人男性は、アジア人女性以外から最も人気の低い人種だ(一方、アジア人女性は最も人気の人種である)。

EMEはそのような背景の中で「アジア系移民」という、かなりざっくりとした枠組みの中で、ポジティブな若者カルチャーを発信し、アメリカ社会の中でマイノリティとして生きることの肯定感を生み出している点で、特異と言える。
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文=岩坪文子 写真=アーロン・コトフスキー

この記事は 「Forbes JAPAN リミッターを外せ!」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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