人工知能が人間の知性を超えたとき、人類に残された選択肢とは何か。『サピエンス全史』の訳者 柴田裕之に聴く(対談第1回)

柴田裕之(左)と武田 隆(右)


武田:現在から過去を振り返れば、その選択は当然だったと思えるものでも、そこにはさまざまな選択肢があったということですよね。例えばローマがキリスト教を選択したというのは、どちらかと言うと、確率が低い方だったかもしれない。そういった歴史を学び、実態を知ると、当たり前と思っていることの呪縛から自由になります。

柴田:歴史は“虚構”と完全にかみ合っていきます。私自身、自分が当然だと思っていたことが、実は当然とか絶対ではないと、何度も先入観を覆される経験をした作品でした。

転機となった革命を小田原駅→品川駅の距離に置き換えてみた

「歴史の道筋は、三つの重要な革命が決めた。約7万年前に歴史を始動させた認知革命、約1万2000年前に歴史の流れを加速させた農業革命、そしてわずか500年前に始まった科学革命だ。三つ目の科学革命は、歴史に終止符を打ち、何かまったく異なる展開を引き起こす可能性が十分ある。本書ではこれら三つの革命が、人類をはじめ、この地上の生きとし生けるものにどのような影響を与えてきたのかという物語を綴っていく」(サピエンス全史・上・14P)

武田:認知革命、農業革命、科学革命の3つの革命のうち、認知革命に重きを置いているというところが斬新に映りました。『サピエンス全史』は135億年前の宇宙誕生から書かれています。まさに世界が生まれた瞬間から始まっていますね。

柴田:非常にスケールが大きいです。

武田:だからイメージしにくい部分もあります。そこで、自分自身がイメージしやすいように、“200年を1mm”として、この図を作ってみました。



柴田:これは大変興味深いですね。

武田:時間を距離に換算してみたのです。200年を1mmとすると、宇宙誕生が65kmになり、小田原駅から品川駅間くらいになります。このスケールを基準にして考えると、出発地点となる小田原が“宇宙誕生”(135億年前)になります。小田原から保土ヶ谷あたりを通過するところで“地球誕生”(45億年前)、新横浜を通過するところで“生物誕生”(38億年前)。品川駅に降りたくらいで、“ヒト科分離”(2000万年前)し、改札が見えたくらいが“出アフリカ”(200万年前)、自動改札が“火の使用”(30万年前)です。

柴田:となるとこの本の主題である“認知革命”(7万年前)は……。

武田:自動改札が開いたあたりです。そして“農業革命”(1万2000年前)は、かかとが上がって最後の1歩、6cmくらいです。“科学革命”(500年前)に至ってはたったの2.5mm。ここからはスローモーションになります。

柴田:科学革命から指数関数的に歴史が進み、急速にシンギュラリティに向かってしまうのかもしれません。このイメージは発想豊かで面白いです。つまり、現代というのはこの一瞬ということがわかります。
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文=武田 隆

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