鹿島アントラーズのポジティブな選択 メルカリへの経営権譲渡がもたらすもの

(Photo by David Ramos - FIFA/FIFA via Getty Images)


時代が平成に入り、日本サッカー界に訪れたプロ化の波のなかで、住友金属工業蹴球団は元ブラジル代表の神様ジーコを現役復帰させて世界を驚かせる。長く2部を戦ってきたチームの強化と同時に、日本サッカー界で初めてとなる屋根付き専用スタジアム、県立カシマサッカースタジアムを実現させる。

99.9999%不可能と告げられた絶望的な状況を、鮮やかに逆転させてJリーグのオリジナル10に滑り込み、名称も鹿島アントラーズへ変えた。2000シーズンの史上初の国内三大タイトル制覇や、2007シーズンから達成したリーグ戦3連覇を含めて、歴代最多の20個ものタイトルを獲得してきた。

一方で筆頭株主となる親会社は2012年10月、住友金属工業が新日本製鐵(現日本製鉄)と合併したことで大きなターニングポイントを迎える。鹿島アントラーズ・エフ・シーも400以上を数える新日本製鐵の子会社のひとつとなり、意見がなかなか反映されない状況に直面するようになった。

迎えた2017シーズン。ライブストリーミングサービスのDAZN(ダ・ゾーン)を提供する、イギリスの動画配信大手パフォーム・グループとJリーグが締結した、10年総額2100億円にのぼる巨額な放映権料契約がスタートしたことに伴い、Jリーグそのものを取り巻く環境も一変した。

放映権料を原資とする理念強化配分金が上位チームを対象に新設され、たとえばJ1を制覇したチームには翌年からの3年間で合計15億5000万円が支給される。優勝するか否かでお金を持つチームと持たざるチーム、要は勝ち組と負け組という明確なラインが引かれることになる。

1993年に産声をあげたJリーグは、各クラブが共存共栄を目指してきた。しかし、2017シーズンを境に熾烈なクラブ間競争の時代へと大きく形態を変えたなかで、鹿島のフロントも営業収益をJリーグの歴史上で未踏の領域となる、100億円の大台に乗せていく青写真を描き出した。


2018年12月、アラブ首長国連邦で開催されたクラブ・ワールドカップに出場した鹿島アントラーズ Photo by Michael Regan / Getty Images

構想を具現化していくためには、補強面を含めて積極的な先行投資が必要になってくる。必然的にクラブ経営にもよりスピーディーな判断が求められるようになったなかで、新体制下で取締役相談役に就いた住友金属工業出身の庄野洋前代表取締役社長はこんな言葉を残している。

「鉄鋼業界は安定していると言われても、たとえば先行投資となると鉄鋼業界のルールのなかで、となる。金額が1億円を超える場合には本社の決済が必要となるとか、そんな(悠長な)ことを言っていたら、その間に(他のチームは)みんな三歩先に行ってしまう」
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文=藤江直人

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