鹿島アントラーズのポジティブな選択 メルカリへの経営権譲渡がもたらすもの

(Photo by David Ramos - FIFA/FIFA via Getty Images)

経営権の譲渡や筆頭株主の変更と言えば、ほとんどのケースで経営難を脱するために下された苦渋の決断だと連想できる。しかし、Jリーグ史上で最多となる20個ものタイトルを獲得してきた常勝軍団、鹿島アントラーズの場合はアジアから世界へと羽ばたいていく未来を見すえた、極めてポジティブな選択だった。

鉄鋼業界の最大手、日本製鉄から創業わずか6年半で急成長を遂げたフリーマーケットアプリの大手、メルカリへ親会社が変わった舞台裏を、鹿島の視線を介して追った。


クラブ経営の健全性と透明性を保つために、Jリーグは機構及び全クラブの経営情報を公式ホームページ上で開示している。たとえば今年7月下旬にすべて出そろった、J3までを含めた全55クラブの2018年度決算を見れば、鹿島アントラーズが極めて秀逸な数字を残していることがわかる。

 全売上に当たる営業収益で、J1全体でヴィッセル神戸、浦和レッズに次いて3番目に多く、なおかつクラブの歴史上で最高額となる73億3000万円を計上。4億2600万円を計上した当期純利益、前年度から4億2600万円増となった21億6600万円の純資産も、同じくJ1で2番目に多い数字だった。

親会社だった日本を代表する重厚長大型企業、日本製鉄(本社・東京都千代田区)の支援をまったく必要としないほどクラブ経営が安定していた。だからこそ、7月30日に電撃的に承認・発表された筆頭株主の変更は、ファンやサポーターを含めて、日本サッカー界を仰天させた。

しかも、日本製鉄が保有していた、鹿島を運営する鹿島アントラーズ・エフ・シー(本社・茨城県鹿嶋市)の発行済み株式72.5%のうち61.6%を約16億円で取得したのが、創業わずか6年半で急成長を遂げたIT企業メルカリ(本社・東京都港区)だったことが驚きに拍車をかけた。

フリーマーケットアプリの大手として知られるメルカリは、2017シーズンから鹿島のスポンサーに名前を連ね、昨シーズンからはユニフォームの鎖骨部分にロゴを掲出している。良好な関係を踏まえてもなお、Jリーグを象徴する常勝軍団が新興企業の傘下に入った事実は衝撃的を持って受け止められた。

先月30日には鹿島アントラーズ・エフ・シーの経営権を、メルカリが取得することが公正取引委員会によって正式に承認された。同日付で鹿島アントラーズ・エフ・シーの代表取締役社長に就任した、メルカリの小泉文明取締役社長兼COOは、買収に至る経緯をこう振り返ったことがある。

「スポンサーとして支援しながら、お互いの考え方や今後の成長戦略について意見を交換してきたなかで今回の結論となりました。チームを強化してきたこれまでの伝統を大事にしつつ、ビジネス面においては進歩するテクノロジーで起こす変革を含めて、さらに大きなチャレンジを介して資金を獲得して、アントラーズを真のグローバルでナンバーワンのクラブへと強化していく循環を強めていきたい」

鹿島の歴史をさかのぼれば、一連の動きの舞台裏が見えてくる。終戦直後の1947年に創部された鹿島のルーツ、住友金属蹴球同好会は1956年に住友金属工業蹴球団へ改称され、1973年には日本サッカーリーグ2部へ昇格。2年後には本拠地を大阪市から、鹿島製鉄所のある茨城県鹿島町へ移転させた。
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文=藤江直人

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