「飯島さんがAirbnbで家を貸しておられる話は、実はしばらくしてからうかがって、最初、ちょっと切ない気持ちにもなったんです。事務所に帰って話した時も、みんなちょっと『ざわっ』としてましたね。建て主さんと丹精して作った家を民泊サービスに供出することへの抵抗感、正直それはあった。
でも、ある時飯島さんに、ゲストが黒板に描いて置いて行った、素晴らしく鮮やかな羽を持つ鳥の絵を見せてもらったんです。
それを見た瞬間、人は基本的に定住する動物だけれど、こうして時に渡り鳥になって、止まり木に羽を休めてもいいんだなあ、とわかったんです。人の『定住性』が、ホテルはホテル、家は家という区別を作りましたが、その中間的な性質を持つ住居の形があってもいいんじゃないかと」
黒板に残された「鳥の絵」
壁をあえて内側に削ったのと同じで、貸すこともマイナスと思いがちだが、「副収入」はもちろん、泊まってくれた人との交流などでプラスになる。大事な物を大事と思う気持ちの連鎖もある。「暮らしの場所を差し出すことでも、人生がプラスになる可能性を飯島さんに教えてもらった」と西久保氏も言う。
そこで、自分が設計した家を、世界から渡り鳥が羽を休める「止まり木」にしてもらえたらと考え、西久保が始めたのが「birdプロジェクト」だ。
建築家と「家」が疎遠にならないように
始まりは、2年前に引き渡した中野の住宅の建主家族が、3年の予定で新潟に転勤することになったことだった。その間、留守宅を3年間まるごと貸すのではなく、「ニコ設計室」が預かって管理・運営することに建て主家族が賛同したのが、プロジェクトの始まりだ。これも、飯島邸にこの中野の家族を案内したからだった。
「birdプロジェクト」第1弾目は、西久保氏が手がけた中野の住宅
「具体的には、2、3階は飯島邸のように、Airbnbで数泊単位で貸す。1階は、イベントスペースやアーティストの個展などに貸し出す。建て主でないご家族が何年も住むと、われわれと家が疎遠になり、メンテナンスもできなくなりますが、数泊単位、イベントなら週単位で運営することでこまめに利用状況も確認でき、現状維持と管理ができる。
実は、家はとっても『強い』、というか、意外に変わらない。中に住む人間、家族関係の方がかえってはかないのかなと思いますね。私は独立して15年ですが、建て主さんのご家庭を見ていても、家ができた時にはちいちゃかったお子さんがもう地方の大学に入って、子供部屋が空になっていたりします。もしかしたらbirdプロジェクトは、そういう『使わなくなった子供部屋』の運営も、考えてもいいのかもしれません」
1階はイベントスペースやアーティストの個展などに貸し出される
多くの人に触ってもらい、使ってもらうことで、家は完成していく。そして色々な人に訪れられ、愛でられた家で、さまざまな「ステイ」が残して行ったお土産や出会いの豊かさとともに家族がまた暮らす━━。
丹精して建てられた家には、そんな多様な歴史を受け入れる弾力や強さがあるのかもしれない。