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フォーブス ジャパン ウェブ編集部 エディター


それで、実際にはない「大木」、想像の「森」をよけるデザインにしてみようと考えたのだ。具体的には、外壁が、住空間を削りながら内向きにカーブを描いている家。引っ込んだことで空いた分の地面には実際には森はないから、花を植えたりして、道ゆく人を喜ばせることができる。

「実は僕もびっくりしたんですが、建てた後で家の中に入ってみたら、壁がまあるく内側に引っ込んでいるのが、まるで、すごく大きな木の根元にテーブルを置いて暮らしているような錯覚につながったんです。仲間入りするために、狭い私有地の一部をさらに削って町に提供したことは、面積の観点ではマイナスだけれど、暮らし心地の観点では削られるどころか反転して膨らんだ。プラスになったなあと」

飯島氏も、この家は町の人に愛されていると感じる、と言う。

「この家をみんなが知ってるんですよね。『階段の下の家』って。通りがかる人たちと、この大きい窓ごしに会話したりしますし」


「階段の下の家」

「飯島さんたちにはもともと、通りすがりの人に『この町に帰ってきたな』って思ってもらいたいという感覚がありました。その、家を町に対して開けば広く暮らせる、という思いが僕と合致したこともあって、とてもうまく行ったんです。

建築は1人でできないところがむずかしいところでもありますが、飯島さんの家は、建て主と建築家という『2個の存在』、これは実は『ニコ設計室』の名前の由来でもあるのですが、その2個が一緒になって作れた例だと思います」

デザインが「解決」したこと

壁の色に関しても西久保氏は、ただ色見本を持って来てテーブルの上で見せるのではなく、色々な時間帯に外の階段まで持って出て、「朝日を浴びる時間にはこう見えます、夕陽の落ちる頃だとこういう色になります」とかざして見せたという。そうやって、イメージが少しずつ実感できたので、建て主としても、「あずき色」というかなり勇気のいる壁色選びに、安心して「飛躍」できた。


「あずき色」の壁色、1階の大きな窓

大きな窓があるから町とつながれるし、色見本だけ見ると奇抜なあずき色も、外の風景や自然光とトータルでデザインされれば「天然」に近い印象になる。実際は内側に円弧を描いた壁で面積は削られているのに、逆に狭さという生活上の問題を解決し、さらには大木に身を寄せているような心持ちの豊かさももたらす。

こういう「思いつかないことが起きる」のがデザインの力なのかもしれない。

構成・文=石井節子

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