カジノ経営で天国も地獄も見た「父の娘」の闘い

『モリーズ・ゲーム』上映会に出席したジェシカ・チャステイン(左)とアーロン・ソーキン監督(Getty Images)


ディーンは1万ドルもの参加費を徴収する非合法のポーカーも主催しており、毎晩のように成功したラッパーやボクサー、著名な若手実業家など錚々たる面々が集まっていた。モリーはカジノの運営を手伝ううちにたちまちコツを覚え、客のチップで稼ぐようになる。

まったく未知のジャンル、男ばかりの裏の世界に足を踏み入れても臆することなく、生来の勘の良さと勉強熱心さでゲームに習熟し、プレイヤー達から信頼を得ていくさまは小気味良い。

中でも常連の「プレイヤーX」と名乗る、誰でもその名を知っているだろうITビジネスの成功者と懇意になったモリーは、彼を通じ上客を集め、客達の会話に上がるアート、金融、政治の裏話などにも精通していく。

だが「上司」からすると、こうした目立ってデキる女は自分の地位を脅かす敵のように思えるものだ。ディーンから解雇されたモリーは落ち込むどころか、大胆にも自ら合法的なポーカークラブを設立、高級ホテルのスイートを借り切ってディーンの顧客を誘導する。



富豪たちのバブリーな実相

完璧なメイクにセクシーなドレスとピンヒール、客の心を掴むトークと最高級のサービス。魅力的な女性経営者の噂を聞きつけた富裕層が集まるようになり、手応えを感じたモリーはハイリスク・ハイリターンのゲームを組んでますます稼いでいく。

ここまでは、男社会を知恵と才覚でのし上がった女のサクセスストーリーだ。

この作品の見どころの一つは、ポーカーというギャンブルの魔力にはまり、途方もない金を賭ける富豪たちの、バブリーな実相である。

ゲームのルールもろくに知らないまま皆のカモとなる投資家。ギャンブル中毒になって破滅寸前まで行く大金持ち。担保として700万ドルのモネの絵を持参するギャラリーオーナー。

そして、「人が破滅するところを見たい」と歪んだ欲望を口にするプレイヤーX。彼にとって金はもはや、その暗い快楽を味わい尽くすために使うものでしかない。

ここにあるのは、グローバル資本主義の世界で大成功し、うなるような額の資産を蓄えたごく一握りの人間の中に巣食う狂気だ。単純に儲け欲や支配欲に取り憑かれていたディーンが、素朴に見えてくる。
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文=大野 左紀子

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