しかしさらに興味深いことに、人はある特定の人物に対する考え方を、その人物から何ら情報を得ることがないまま吸収できるようだ。さらに悪いことに、私たちは、その人に対する意見が自分自身のものだと確信している。
同調査では、問題提起として冒頭で次のように述べている。
「混んだ地下鉄に乗り込んだところ、乗客たちがある人物から距離を置いているように見えることに気づいた場面を想像してほしい。非言語的な振る舞いから、その人物に何か問題があることが示唆されている。しかしよく観察してみるとその人物は十分普通の人に見え、なぜ他の人がこの人を避けているのかについて説明が思い浮かばない。それにもかかわらず、他の乗客の非言語的な振る舞いにより、あなたは他の乗客と比べてこの人の周囲にいることに居心地の悪さを感じるようになるかもしれない」
この研究は、こうした情報伝達がどのようにして起きるか、また情報の受け手が、その状況に対する自分自身の意見をどのように形成するかを理解しようとしたものだ。これまでの調査では、こうした反応が人種など、主に事前に存在する先入観に基づいていることが分かっていた。しかし今回の調査では、こうした先入観が存在しない場合、人から人へと考え方が“伝染”するかどうかに焦点が当てられた。
実験の詳細
研究チームは、テレビ番組の『アリー・myラブ』から、主人公が他の登場人物に対しポジティブ、あるいはネガティブな反応をしている映像を選び、被験者に見せた。研究者らは人種の要素を一定に保っていた。また被験者らは主に大学生で構成され、ドラマ放映時非常に幼かったため同番組を見たことがなく、登場人物や俳優に対する先入観がない。
選ばれた映像の中で言葉は使用されず、俳優が他の人物(被験者が評価するよう指示された対象者)に関して伝えた情報は全て非言語的なものだった。研究者らはその後の追加実験で、俳優らの顔の表情をデジタルに編集し、2人以上の登場人物を使ったより明確な動画を作成した。また、評価対象となる人物の顔の表情も完全に中立的なものになるよう編集したため、対象者自身から情報を得ることはできない。
実験の結果、映像を見た被験者は評価の対象者に対し、俳優の反応と同じ意見を持つことが何度も示された。つまり、俳優らが評価対象人物に対してポジティブな反応を見せているとき、被験者らはその人物をより好ましい人物として評価した一方、俳優がネガティブな反応を見せたときには好ましくない人物として認識していた。