「世界の明日」をつくれるか? 研究都市つくばの挑戦

中国・大連で開かれた「サマーダボス2019」に登壇した五十嵐立青 つくば市市長


──つくば市が世界に発信、提供しえる強みとは?

2つある。1つは、ディープテック。つくば市は、国が2.6兆円もの資金を投じて建設した研究学園都市であり、多くの研究所が世界にインパクトを起こしうるシードを持っている日本のR&Dセンター。一朝一夕にできたものではなく、長い時間とすばらしい人材によって研究開発が積み重ねられて生まれた技術や研究成果は、生命や社会の根源的な部分にまで影響を与えるサービスやプロダクトにつなげられる可能性が大きいといえる。

2つめは、社会実装までのスピード感だ。テクノロジーをいかにスムーズに社会実装させていくのかがカギになる。つくば市はいま、政府と交渉や調整をしながら、スピード感を持って社会実装を進めている。ありがたいことに市に持ち込まれる案件も官民問わず多い。

ただ、技術レベルではすでに実装可能なものでも、国の規制によって実施できないことも多い。そこをクリアするためにも、都市の大幅な規制緩和と新技術の社会実装を目指すために国が進める「スーパーシティ」には、ぜひとも選定されたいと考えている。



──具体的に、民間や市民とはどんな連携をしているのか

多くの企業から「日本で最初の事例をつくば市でつくりたい」とご提案をいただいている。通常であれば行政は、予算措置が必要になるので事業実施までに時間が掛かるが、つくば市では共同研究や実証実験の形を取ることでスピード感を持った取り組みを可能にしている。

ブロックチェーンによるインターネット投票や、単純で膨大な市役所業務の自動化のためのRPAの導入など、進めている多くの日本初の事業はその成果だ。

つくばは、土地柄もあって情報への感度や新しい取り組みに対して前向きに捉える市民が多いとは感じる。ただ、そのような環境に甘えず、行政としては丁寧に社会のあるべき姿や技術についての対話を時間を掛けてしていくことが前提となる。

「いいものだから」と押し付けるのではなく、市民がその取り組みの意味と、時にはリスクも含めて理解した上で事業を進めることが重要となる。

──対外・国外への発信など、ご自身の役割は

私は市政経営において「己を虚しゅうする」ことを意識している。私の名前を知らずとも、つくばのことを知ってもらえることを目指しているし、誰が市長になってもつくば市が評価を得続けるまちであってほしい。

少子高齢化が世界中で進む中で、どの自治体も未だ解決できていない課題に対してモデルを提示する「世界のあしたが見えるまち。」がつくばのビジョン。その実現においてはいかに自分よりも優秀な人材に近くにいてもらえるかが重要なので、副市長や部長級、アドバイザーなどのリクルートには力を入れている。すばらしいメンバーが集まり、優秀な職員とともに前向きに仕事を進めてくれている。
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構成=谷本有香 写真=世界経済フォーラム

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