長らく慶應義塾大学で起業家の育成に携わってきた國領教授に、教育の現場から見た起業家としての心構えや、日本のベンチャーが世界で戦い抜いていくための秘訣についてドリームインキュベータの小縣拓馬が聞いた。(全6話)※本記事は2017年8月に実施したインタビュー内容を基に作成しております。
一歩引いて、俯瞰して思考することの重要性
──少し切り口を変えてお尋ねします。大学はやはり理論を学ぶ場だと思うのですが、それを実践に応用するには隔たりもあるのではないかと感じています。どうやれば、知識や理論が生きた実践に繋がるのでしょうか?
僕は、理論と実践の間に溝を作らなくてもいいんじゃないかと思っています。実践を通じて理論を磨くようなことがあっても構わないですし、逆もしかり。むしろ、大事なのは常に「科学的に考えること」です。
──科学的に考えること、ですか?
エビデンスを大事にしつつ、現場で目の前に見えているものだけにこだわるんじゃなくて、より抽象化したところで考えるという意味です。
たとえば、こう考えてみてください。だんだん学校の授業みたいになってきましたが(笑)。
今、「シェアリングエコノミー」が話題ですよね? なにが変わったからこんなにブームになったんでしょうか。そもそもシェアリングエコノミーってなんなんでしょう? シェアっていうけど、一体何をシェアしてるの? どう思います?
──何をシェアしているか……。普通に考えると使われていない資産やモノでしょうか?
なるほど。じゃあ、なぜそれができるようになったんでしょう? 今までだってそういう形態のビジネスはありましたよね。貸し会議室とか。
──情報化によって世の中に存在している余剰なモノが、情報として色んな人の前に平等に顕在化してきたおかげで、「どこに何があって、どう借りられるか」が最適化されてきたというか……。
なるほど。顕在化、最適化ね。
──本当に授業みたいになってきましたね(笑)。
という風に考えることが、私が言う「科学的に考える」ことです。
一歩引いて物事を抽象的に考えてみて、だったらどこが残っているとか、これができるようになるだろうとか。そのような思考法で常識に先んじてチャンスを捉えることが起業家には必要です。
今「シェアリングエコノミーとはなにか」について、DIさんがおっしゃっていただいたようなレベルでビジネスについて投資家に説明できれば、とてもいいですよね。だから理論と実践は矛盾していないと思っています。科学的に考える癖をつけることが重要です。