ビジネス

2019.09.10

いいとも終了から大赤字へ転落──スタジオアルタが見せた奇跡のV字回復劇

スタジオアルタ代表取締役の嶋田正男氏


そうして自社の強みを洗い出していくと、次第に勝ち筋が見えてきた。営業戦略の転換によりアルタビジョンの収益は大きく回復。自社で保有している劇場・オルタナティブシアターは単なる貸し館ではなく、エンタメ系企業やイベント企画運営企業、チケットシステムを提供する企業などと多角的にアライアンスを提携。

オンラインの時代だからこそのライブ感と顧客満足度を上げる仕組みを整える。さらに、アルタビジョンの知名度と運営のノウハウを活かして三越伊勢丹へのデジタルサイネージ導入を進めるなどし、広告での収益化やインバウンド対応、さらには空間演出に至るまで幅広く貢献できるようになり事業の幅も広げ始めている。


伊勢丹に導入したデジタルサイネージ

「これまではビジョンを始めとしたメディア事業と劇場などのシアター事業を無理やりつなげようとしていました。けれど今後は、映像制作、イベント、サイネージ導入をリンクさせていき自然な形でシナジーを生み出すようなユニークな事業展開をしていきたいと思っています」

赤字の穴を塞ぎながら、自社の強みを再発見ししなやかな事業の舵取りをしていった結果、18年には黒字転換。さらに19年には倍増の営業利益を目指している。

現在も改革の途中だ。嶋田はサーキュレーション社のプロシェアリングの導入をきっかけに、直近3カ月間で約40人の他業種の経営者と会い、新規事業の種まきを続けている。

「これまでは業界内を走り回ることに精一杯で、外の人たちと接することはありませんでした。ようやくそれを始めたら新しい発見や気付きが次々とあって、やっと将来の計画が描けるようになってきたところです」

今後の展望について聞くと、嶋田は「社員たちの今までの苦難に報いたい」と一言。業績が上がっていけば、給与や賞与で社員に還元していくことができる。「笑っていいとも!」の終了で迷走した数年前の反省を活かし、今後考えうるリスクにも迅速に対応しつつ、事業も、経営体制も整えていく。

経営者としてのキャリアは初めての嶋田だが、「ようやく経営者の視座で物事を見れるようになってきた」と楽しそうに笑う。



アルタの語源は「ALTERNATIVE(オルタナティブ)」にある。80年代の創業当時は革新的だったファッションビルとスタジオ、大型ビジョンが一体となったスポットは、まさにオルタナティブそのものだった。一度は瀕死の状態だったスタジオアルタは、これからどのようなオルタナティブを示していくのだろうか。

文=石原龍太郎 写真=ラン

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