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2019.09.09

成長の秘訣は「やどかり型」 DMM亀山会長が語る経営法

DMM.com 会長の亀山敬司(写真:日本経営合理化協会)


谷本:ここにいる経営者の方々は、1つ以上の成功領域を持っている方々です。たとえば、みなさんが既存の専門領域以外に、新規事業を作らなければならないとしたら、どんなアドバイスをされますか?

亀山:新しい事業をやろうとすれば、社内ベンチャーかM&Aするかだと思いますが、どの業種にも共通しそうなAIやIT系の話をしましょう。例えばIT系ベンチャーをM&Aした場合、彼らを親会社のルールの枠内に入れようとすると、ほぼほぼ失敗します。

AIやITのスタートアップの世界と、ここにいるみなさんのような既存の会社とでは、会社や社員に対する考え方がかなり異なります。みなさんの中には「社員は家族だ」と考える方はおそらく多いはずです。でも、IT業界では「社員=フレンド」なんです。ここに圧倒的な差があります。

M&Aに対する考え方も、僕からすると自分たちの社員を売り飛ばすように感じる。でも、彼らは売る方も売られる方も、それほど気にしていないんですよ。会社はあくまで箱であり社長もフレンド。「俺は株売って10億円ほど入ったから他の仕事やるわ。みんなバイバイ」って。社員たちも「じゃお元気で」みたいな感じなんですよ。この感覚は、なかなかピンと来ないですよね。

この間、ネットメディアの「NewsPicks」と、出版社の「幻冬舎」がもめた事件がありました。NewsPicksが提携をやめると言ったら、幻冬舎の社長さんが「義理も人情もない」と怒ったという話なんですけど。まさにあれも「家族だと思って協力してたのに」っていう幻冬舎の思いと、「提携やめてもフレンドじゃないですか」というNewsPicksの考えと、多分この辺のズレというのがあって、どっちも悪気はないんだけど文化の違いで「何でそうなるの?」って、お互い理解しにくいんです。

日本的な経営感覚から見れば、IT系はどっちかっていうとアメリカっぽいような感覚。もう異国だと思ったほうがいいんですよ。だから、そういう企業をM&Aしたときに自社のルールを当てはめようとしても、モチベーションがなくなります。人材が欲しくて買ったのにみんな辞めてしまって、何のためにM&Aか分からなくなってしまう。これはITベンチャーのM&Aでよく見る現象です。



谷本:新しい事業を次々と展開されていますが、新規事業を生み出す際、どうやって発想しているんですか?

亀山:今の新規事業は、ほとんどが若いやつらが考えたもので、僕は予算づけとアドバイスをしているくらいですね。

50歳近くなると本当にネタ切れになってしまって、自分の発想で幾つか新規事業をやってみたけど、全部コケたんですよ。次にどこに向かえばいいのか分からなくなって、行き詰まってしまった僕は、外の世界に行こうと考えました。人と会うのが苦手で50歳まで避けてきたんですが、勇気を持って20代の人たちに話しかけにいったわけです。

スーツだと浮いてしまうので、Tシャツを着てスニーカーを履いて、若者が出入りするバーやイベントなど、あちこちに顔を出して話しかけました。最初は名刺交換する手が震えるくらい、オドオドしていたんですよ(笑)。

彼らからはテクノロジーやトレンドを教えてもらい、僕は彼らが分かっていない財務や税務など経営のことをアドバイスする。お互いに学び合い、相手を尊重して会話を続けていくと、いろいろな事業が生まれるようになってきた。
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文=筒井智子 写真=日本経営合理化協会

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