スローサー会長の退職を、キャセイは「定年退職によるもの」としたが、社内向けのメモで、彼は次のように述べていた。「ここしばらくの混乱により、当社の未来についての懸念が生じている。しかし、航空分野の企業にとって事業環境の変化は当然のことだ。我々のビジネスは常に、地政学的要因などの不確定要素の影響を受けてきた」
キャセイでは8月19日に、ルパート・ホッグCEOらが辞任していた。ホッグらの辞任は、同社の社員が香港の反政府デモ活動に参加していたことが発覚し、中国政府の非難を受けてのことだった。
香港ではここ3カ月近くの間、中国政府に対する抗議デモが続いており、中国政府は企業らに対し、政府への支持を呼びかけている。また、政府の方針に従わない場合は、中国市場から追放されることもあり得ると警告している。
スペインのファッションブランド「ザラ」は先日、中国の香港統治を支持する声明を発表した。ザラは香港の店舗を一時的に休業させたことで、デモを支持したとの疑惑をかけらており、今回の声明には疑惑を打ち消す意図があると見られている。
また、他のファッションブランドの「コーチ」や「ジバンシィ」なども、商品のデザインで香港や台湾を国家として扱ったとの非難を浴びていた。
中国でのビジネスに詳しいコンサルティング企業の担当者は「中国政府は以前から中国でビジネスを行う企業らに、政府への忠誠を求めてきたが、香港でのデモの発生以降、その要求は厳しさを増した」と話した。
今回のキャセイの動きも、中国政府による圧力を受けてのものと見られる。キャセイの事業は、中国本土からの旅行客への依存度が非常に高い。さらに、同社の2番目の株主は中国国営の航空会社である「エアチャイナ(中国国際航空)」だ。
ジョンズ・ホプキンス大学の政治経済学教授のHo-Fung Hungは「中国政府のスタンスは長期的視点から見て、経済に悪影響を及ぼす。企業らは中国事業の先行きに懸念を示し、今後は中国市場への依存度を引き下げようとしている」と述べた。
投資アドバイザー企業Kaiyuan CapitalのBrock Silversも「民間資本が香港から撤収する動きも始まっている」と述べた。「中国政府の圧力により、長年、アジアの金融ハブとして栄えてきた香港の未来への懸念が高まっている」とSilversは続けた。