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2019.09.17

ソニー「ウォークマン」は弁証法でヒットした

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そして、21世紀初頭の現在、いまだに世の中は構造主義を中心とする思想の強い影響下にあるといえます。

では、どうして私は一世代前の弁証法を今、わざわざ持ち出すのか?

それは、構造主義が「道具」としては使い勝手の悪い部分もあるのではないかと感じているからです。

構造主義を道具として使おうとすると、スタティック(静的)な発想になりがちです。たとえば構造主義から生まれたロジカル・シンキングからは、「飛躍した発想」は生まれにくいでしょう。

しかし弁証法では、単に「正」と「反」を掛け合わせるのではなく、そこから止揚させるという意味で、「よりダイナミック(動的)な発想」が可能となります。

構造主義と弁証法の捉え方の違いを理解するには、「ウォークマン」を考えてみるとわかりやすいかもしれません。ウォークマンはソニーの小型オーディオプレーヤーで、1979年に発売され80年代に一世を風靡しました。


1980年製ソニー「ウォークマン」(Gettyimages)

この商品がどのような発想の組み合わせで生まれたか考えてみると、構造主義的な理解では、「テープ再生機」を「小さくする」した商品ということになります。

しかし弁証法的に理解すると、「テープ再生機」(正)と「小さくする」(反)が止揚することで、ユーザーが「今見ている風景に、自分で好きなBGMを添えられるようになった」とも捉えることができます。

単なる「再生マシン」ではなく、映画的な表現でいうなら、「劇伴(映画やテレビドラマで流れる伴奏音楽)」を創出する装置になったのです。音楽を外に持ち出すことで、生活そのものがオリジナルな自分だけの映画のようになり、ドラマティックになったともいえます。

ここからポータブルオーディオプレーヤーは世界中に広がり、現在はスマートフォンなどに形を変えつつ、人々の暮らしの意味を変えてきました。

まとめてみましょう。

【構造主義の考え方】
・AとBを組み合わせて「AB」にする
・「AB」をAとBに分解する

【弁証法の考え方】
・AとBを止揚させて「C」にする
・「C」がどのように生まれたかを考え、AとBを導き出す
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文=さかはらあつし 編集=石井節子

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