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2019.09.17

ソニー「ウォークマン」は弁証法でヒットした

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『Bean Cake(おはぎ)』のあらすじは以下のとおりです。

小学校に転校してきた男の子が、先生に「天皇陛下への忠誠心とおはぎのどっちが大好きなのか?」と聞かれ、頑固に「おはぎ」と答えます。しかし、学校を出されそうになり、気になる女の子のことを考えてあっさり「天皇陛下」と答えを変えます。そのあと、女の子とおはぎを一緒に食べるシーンがあり、その子に「私とおはぎとどっちが好き?」と聞かれる、というオチです。

一方、「赤い婚礼」は、明治時代の農村に生きる農家の少年と武家の娘の心温まる交流に始まり、悲恋に終わる物語です。この作品の第2章に、ちょうど映画の元となる少年と少女のやりとりがあり、ここを翻案したのです。

「赤い婚礼」には続きがあり、成長した二人は心中するという結末を迎えます。『Bean Cake(おはぎ)』も長編映画にしないかという話もありましたが、原作が悲劇に終わるため長編にはしませんでした。

ちなみに、デビッドが映画制作を専攻した南カリフォルニア大学は『スターウォーズ』の監督ジョージ・ルーカスの母校でもあり、世界でも最精鋭の映画学校として知られていますが、卒業作品がカンヌの公式コンペティションに招待されたのは初めて。その上、最高賞のパルム・ドールを受賞するという偉業により、デビッド・グリーンスパンの名はハリウッドの映画人に広まることとなりました。

マッキンゼーは「構造主義」を道具に成功した

さて、私が「道具」としての弁証法に着目するのには、理由があります。

ビジネスにおいて、自分の思考法や発想法の特徴を理解しておくことは非常に大切です。自分のやり方がどのようなものかを知っておくと、行き詰まった時に別の思考法や発想法を試みることができるからです。逆に、自分のやり方を理解していないと、何が別の思考法や発想法なのかもわかりません。

現在、ビジネスにおいて影響力のある思考法は、「ロジカル・シンキング」や「クリティカル・シンキング」といえるでしょう。

ざっくり伝えるならば、ロジカル・シンキングは、事実や状況を分類・分析して筋道を立てて考える思考。クリティカル・シンキングは、分類・分析した上で、ひとつひとつの要素に対して前提を疑ってみる思考です。

実はこれらの思考は、19世紀にフランスの文化人類学者レヴィ・ストロースらが始めた、物事を構造、関係性や機能などで理解するという「構造主義」という思想の流れから来ています。

構造主義は、思考の手法として使い勝手が非常によく、19世紀から20世紀にかけて、文化人類学のみならず言語学や生物学など多くの思想や学問に大きな影響を及ぼすことになります。

そして20世紀に入り、構造主義の手法を駆使するビジネス集団が生まれました。それがマッキンゼー・アンド・カンパニー、ボストン コンサルティング グループ、ローランド・ベルガーなどの経営コンサルタントたちです。

彼らは、物事の構造を分解、理解し、新たな価値を生み出しました。つまり構造主義の考え方を「道具」としたのです。元マッキンゼーのバーバラ・ミントが1978年に著した『考える技術・書く技術』(日本版はダイヤモンド社刊)には、コンサルタントの基本的な思考法が記されています。
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文=さかはらあつし 編集=石井節子

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