キャリア・教育

2019.09.08 17:00

孤独な青春で身につけた、ゼロイチのための「ゴール思考」

日本美食CEO 董路

日本美食CEO 董路

インバウンド観光客をターゲットに集客、予約、決済サービスを飲食店に提供する日本美食。CEOの董 路に、日本の魅力や可能性、留学時代の思い出を語ってもらった。


1993年5月、二十歳で日本に語学留学し、埼玉大学卒業後は外資系の証券会社に入社しました。その後、米スタンフォード大学にてMBAを取得し、2004年に中国に帰国。外資系コンサル、ベンチャーキャピタルを経て、2社のベンチャーを起業、14年にそれらの事業を売却して、15年12月に日本で「日本美食」を設立しています。

僕は日本の食事が大好きなんですが、日本の飲食で唯一残念だと思うのが外国人観光客にとって「探せない、通じない、払えない」こと。その悩みを解決すべく、世界中の決済をひとつにまとめるスマホ決済サービス及びインバウンド集客サービスを展開中です。

僕は北京生まれで、1989年の天安門事件のときは17歳。正直、人生観が変わりました。中国がこの先どうなるかわからない中、道を切り開くには先進国へと留学するしかない──。それで家族や親戚、父の友人からも借金し、日本にやってきました。

しかし、午前中は日本語学校、午後から閉店まで原宿の中華料理店で皿洗いのアルバイトをし、帰宅後に2〜3時間予習復習してから寝るという日々は、想像以上に辛かった。親戚や友達がひとりもいないという孤独、言葉がわからないという劣等感にも苛まれました。

特に7月の夏休み期間中は1日誰とも口をきかないので、喋り方を忘れそうな恐怖に襲われる。自分が誰からも認知されない“透明人間”のような気持ちになっていくんです。それでアルバイトから帰宅すると、鏡に向かって必死に話しかけたりして(笑)。1週間の食費も300円に切り詰め、体重は50kgに。

何とか頑張れたのは「必ず来春に日本の大学に入学する」という目標があったから。猛勉強の末、2年のコースを3回飛び級して日本語1級試験に合格し、無事大学に進学することができました。

このタフな経験のおかげで、僕はいま何も怖くありません。これから他の国でゼロから何かを立ち上げるのだとしても、自信があります。大事なのは「ゴール思考」。期日とアクションと量の3つを細かく決めて予定を立て、行動することです。社員が「来週中には」なんて曖昧なことを言うときは、「何月何日何時何分までに何をどれくらいやるか、常に定量化しなさい」と伝えています。

趣味は料理。特に中華料理が得意です。実は先の中華料理店でも半年は皿洗いでしたが、ある日、「ルーくん、賄いつくってみる?」と言われ、張り切って本場の麻婆豆腐と青椒肉絲をつくったら、「こんなに美味しいの? 明日からキッチン立って」と(笑)。

アルバイト最終日にはみんなが泣いてくれて、オーナーシェフからはダイバーズウォッチを、ホールの皆からは電子レンジをいただきました。この店が僕の日本で初めて働いた場所で幸せでした。

いまは仕事でもオフでも日本全国をまわって、各地の名物やそれぞれの四季の良さを体験しています。47都道府県×四季=188のパターンがあるので、毎月1回通っても約15年かかりますが、そうやって日本の素晴らしさを海外に発信していくというのが、私の使命だと思っています。
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構成=堀香織 写真=yOU(河崎夕子)

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