「公平性」から考える、大学入試制度変更の問題点とは

2020年度(21年1月実施)の入試から、大学入試制度が変更になる予定だ。現在のセンター試験が廃止され、大学入学共通テストとなる。次の2点が大きな変更である。第一に、英語では4技能(読む、聞く、話す、書く)を評価するようにする。そのため、会話の力や作文力を試すため、スピーキングや筆記のセクションを含むような民間テストを導入する。第二に、これまですべて5択でマークシート方式であったが、国語、数学に記述式問題を導入するというものだ。

英語の能力を試験するのに、これまでの2技能よりも4技能であるほうが望ましいことには間違いない。また、記述式問題の導入は、記憶力に重きをおく現状の試験から「思考力・判断力・表現力」を一層重視する、という方針の反映なので、これも望ましい。しかしながら、よく考えると、この2つの変更は、「公平性」の観点から大きな問題をはらんでいる。

まず、英語の4技能試験の問題点は、「話す」「記述式で書く」という技能の試験の採点には時間がかかるし、なにより採点者の裁量が入る余地が大きいことである。採点に大きな負荷がかかる。「話す」能力を同じ日に試験するためには、試験官を多数動員するか、会話ができるコンピュータープログラム(AIの応用か?)を構築する必要がある。TOEFLで行われているのだから、技術的に不可能ではないはずだ。

記述式の書く技能の試験も同様だ。コンピューターに打ち込めば、機械による採点も可能だが、そのような機械を確保しなくてはならない。そこまで実施する能力が、共通テストの運営主体にはなかった。そこで民間テストで代用、ということになった。民間への丸投げである。

民間の試験では、「ケンブリッジ英語検定」「実用英語技能検定(英検)」「GTEC」「IELTS」「TEAP」「TEAP CBT」「TOEFL iBT」「TOEIC」が認定された試験団体のリストであった。ところが、7月2日にTOEICが離脱を表明。共通テストから要求される受験から成績提供までの日程などが、対応できないものだったとした。ほかの団体は大丈夫なのだろうか。

一方、東京大学を含む国立大学の4割が英語民間試験を合否に使わないとしている。リストにある多くの試験の比較可能性に懸念が残り、公平性を確保できそうもないからだろう。各種の試験の実施団体も日程上の不安を抱えている状況では、本当に4技能の民間試験を、一点の差を争う、一発勝負の日本の入学試験に使えるのか、という懸念は大きい。
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文=伊藤隆敏

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