「公平性」から考える、大学入試制度変更の問題点とは


次に、数学と国語の記述式の試験も、採点にかかる時間を考えると非常に問題が大きいといえる。センター試験は、18年に約58万人が受験した。国語と数学はほぼ全員が受験すると考えられる。58万人分の記述式問題を数日で採点するためには、何人の採点者が必要か、計算したのだろうか。

案の定、「文部科学省はアルバイトの大学生も認める方針である」とNHKが7月4日に報じた。学生アルバイトによる採点は、まずいだろう。採点要領は作成されるだろうが、採点に慣れていない学生がすぐに公平な採点ができるとは到底思えない。さらに採点者一人で100人分採点するとしても5000人以上が動員される。

同じように質の高い採点者をどのように採用するのだろうか。いい加減な採点をされたのでは、人生がかかる受験生は可哀そうだ。

問題点はあきらかだ。スピーキングの採点、記述式の採点は、否が応でも主観が交じる。採点者の巧拙もあるだろう。大学入試の最大の要である「公平性」を保つのは不可能だ。英語の4技能も記述式課題も、高校のなかでしっかりと教えて内申書に反映させればよい。入試で問う必要はない。これは各大学の教員が採点することになる。

国立大学の入試が一校だけを選んで入試する形式をとり続ける限り、「公平性」は何にもまして重要である。英語のスピーキングや記述式問題、国語や数学の記述式問題は、共通テスト(現、センター試験)のあとで行われる、それぞれの大学の入試で問えばよい。大学の1年生での教育で補強することも考えられる。

いまからでも間に合う。英語の民間試験の採用はやめよう。国語、数学の記述式問題もやめよう。


伊藤隆敏◎コロンビア大学教授・政策研究大学院大学特別教授。一橋大学経済学部卒業、ハーバード大学経済学博士(Ph.D取得)。1991年一橋大学教授、2002年〜14年東京大学教授。近著に『公共政策入門─ミクロ経済学的アプローチ』(日本評論社)。

文=伊藤隆敏

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