技術とリベラルアーツの「共進化」が未来をつくる

各界のCEOが読むべき一冊をすすめるForbes JAPAN本誌の連載、「CEO’S BOOKSHELF」。今回は、ABEJA代表取締役社長CEO兼共同創業者の岡田陽介が「坂の上の雲」を紹介する。

IT業界を席巻し、世界のビジネスを牽引してきた「GAFA」。その大きな影響力を持つGoogle、Apple、Facebook、Amazonなどの大企業は、知りたい、愛されたい、つながりたい、欲しいと思う人間の「欲求」をテクノロジーによって満たすことで、爆発的に事業を拡大してきました。そのなかで、目覚ましい進歩を遂げたAIなどのテクノロジーが、今後ますますビジネスや日常生活に浸透するのは必至。いま、私たちは大きな転換点に立たされているのです。
 
今回取り上げた『坂の上の雲』も、日本が大きく変わろうとしていた時代が舞台になった歴史小説です。明治維新を経て、近代国家の体裁を整えた日本が、日露戦争でバルチック艦隊を有するロシアに勝利──。人気小説ですから、多くを説明する必要はありませんね。

私が、本書を面白いと思った理由のひとつは、主人公3人の生きざまが対比的に描かれているところです。日本陸軍の騎兵部隊を創設した秋山好古と、その弟で海戦戦術に長けた秋山真之は、冷静な判断力と行動力を併せ持ち、前線に出て、軍事面で日本を勝利に導きました。

物語の花形として登場する秋山兄弟に対して、もうひとりの主人公である正岡子規は、客観的に世界や自己の死を見つめ、多くの俳句や短歌を残しました。ふたりと比べると、「静」の存在です。国は、力だけで栄えることはできません。文学や芸術など文化的な発展も絡み合って、その後の時代の礎を築きあげていきます。この3人が、そのことをあらためて腹落ちさせてくれました。

そして、もうひとつは、現在のベンチャー起業家の比ではないほどの若者たちの想いの強さです。一国を背負っている強さはもちろん、未来を強く見つめ、底抜けに明るい。それは、学べば学ぶほど自分の力で世界を変えていけるのだという、新しい時代に強い希望がもてたからだと思います。

冒頭に、「いま、私たちは大きな転換点に立たされている」と書きました。もしかしたら、「進化したAIがほとんどを判断し、人間の価値がなくなる」、そんな未来を想像している方もいるかもしれません。確かに、テクノロジーは進化し続ける宿命で、その進化によってできることは着実に増えていくでしょう。

しかし、その進化を止めないためにも、暴走させないためにも、教養や文化、芸術など、対比する「リベラルアーツ」も進化しなければなりません。対比するもの同士がともに成長しつつ、発展していく。この矛盾は、昔と変わらず、未来にもきっとあり続けるものだと思っています。

どうですか? 皆さんにも、GAFAの次が、そして変革する未来が見えてきたでしょうか。


岡田陽介(おかだ・ようすけ)◎1988年生まれ。高校でCGを専攻し、全国高等学校デザイン選手権大会で文部科学大臣賞を受賞。大学在学中、CG関連の国際会議発表多数。IT企業を経て、2012年9月、日本初のディープラーニングを専門的に扱うABEJAを起業し、現在に至る。

構成=内田まさみ

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