米中の貿易摩擦の高まりの中で、スタートアップ企業を取り巻く環境は厳しさを増している。北京本拠の投資ファンドZhenFund(真格基金)幹部のLiu Yuanは「景気の減速は明らかであり、投資家らは出資を控えるようになった」と話す。
「中国のスタートアップ業界は、モバイルインターネットに続く新たなトレンドを見いだせていない」
北京本拠の調査企業Zero2IPOによると、2019年上半期の中国のスタートアップ企業のエクイティ資金調達額は、前年から59%マイナスの370億ドルに減少した。
この状況は、市場がスタートアップのブームに湧いた2018年とは大きく異なる。動画アプリTik Tok運営元のバイトダンスは2018年10月に、ソフトバンクグループなどから30億ドル(約3360億円)を調達し、企業価値は750億ドルとされた。
スタートアップ市場が急速に冷え込んだ一因に、上場を果たした企業の冴えないパフォーマンスを指摘する関係者も居る。EV(電気自動車)メーカーのNIOや、スマホのシャオミの株価は、IPO時点の価格を大幅に下回っている。
米中の対立の高まりや、香港で続くデモ活動により投資意欲が減退していることもあげられるが、一部の投資家はそもそも、上場を果たした企業が過大評価されていたと指摘している。
北京に本拠を置く投資企業InnoVision Capitalの共同創業者のKevin Caiは「期待したリターンが得られなかった投資家らは、新たな出資を控えている」と話した。巨額の調達資金を燃やし続け、収益化を果たせなかったスタートアップもある。その筆頭にあげられる自転車シェアのofoは、昨年末からほぼ破産状態にあり、運営は続けているものの負債の清算に追われ、デポジット金の返還に苦慮している。
今後は「ビジネス市場」に成長期待
「これまで、投資家はスタートアップの成長を重視していたが、今は説得力のある事業プランを求めている」とLightspeed China Partnersのヴァイスプレジデント、Stella Zhaoは話す。
Innovision CapitalのCaiは、投資ブームが再熱するには貿易戦争の収束と株式市場の回復を待つ必要があり、少なくとも2年を要すると予測する。それまでの間、投資家が期待を寄せるのはロボティクスやクラウドコンピューティングなどのビジネス向け市場だ。
彼らは、中国がセールスフォースやスラックのような生産性向上アプリを独自開発することを期待している。賃金水準の上昇やテクノロジーの成熟化により、多くの企業が業務用ツールやソフトを導入しており、業界の再活性化が見込まれている。
「今後は、コンシューマ向け市場における機会はますます少なくなる。一方で、ビジネス向け市場は巨大でチャンスも大きい。金融やウェルスマネジメントのようにテクノロジーの敷居が高い分野では、今後5年以内に主要なリーダーが登場するだろう」とCaiは続けた。