その太平洋・島サミットでの成功の流れを汲んだ、G20大阪サミットの配偶者プログラムはどのような内容だったのか。まず、昭恵氏の開会挨拶の要旨を紹介しよう。
「現在、海が汚れ、森、里、川、海の豊かな恵みが失われつつあります。海は地球の『肺』であり、海が汚れてしまうと、地球全体が、息が出来なくなってしまうのです。このままでは、私たちの子供、その先々の世代の幸せな未来を奪ってしまうことになりかねません。
海を守ることは地球規模の課題であり、世界各地における私たち1人1人の身近な行動が大切です。未来の世代に美しい海と豊かな暮らしを引き継いでいくために、この機会を1人1人に何が出来るかを考えるきっかけとしたいと思います」
この昭恵氏の思いを受け止めるかたちで、専門家対談として、NPO法人森は海の恋人で知られる宮城県でカキ養殖業を営む畠山重篤氏と環境省の中川政策統括官を迎えたパネルディスカッションが行われた。
さらに、関西大学北陽高等学校の生徒による、アマモ再生プロジェクトの紹介や阪南市立舞小学校の児童らによるアマモ養殖場での体験といった、地域の子供たちの海と持続可能性に関する取り組みについての短い発表も行われた。
G20大阪サミット2日目に行われた配偶者プログラム
サステナブルな魚介の鮨
シンポジウムのあとには、サステナブルな魚介類を中心に、世界各国からのゲストの食習慣や宗教や嗜好に配慮した鮨が、昼食には振る舞われた。
慶應義塾大学卒業の鮨職人で、この昼食会のプロデュースを任された手塚良則氏は「国産の食材に限定し、総理夫人のご意向に沿うようサステナビリティに配慮したメニュー構成に砕心しました。各国のゲストのおもてなしには多様性に配慮することが必須で、勉強になりました」と振り返る。
手塚氏が4代目となる松乃鮨は、ブルーシーフードパートナーとして普段から持続可能性に配慮した水産物の調達の知識を深めている。
水産資源が枯渇しかけているいま、欧米各国では、すでに持続可能性の担保は、水産物の付加価値として認識されている。和食が世界文化遺産に登録され、鮨が世界的なブームとなるなか、その主要な食材である水産資源の持続可能性への認識は、日本にとって食文化のみならず、水産資源の輸出促進や沿岸地域の活性化などを含む経済成長に関する重要課題なのである。
昭恵氏の配偶者プログラムは、G20という国際的な重要会議の場に、海洋の未来について確認する機会を提供したことが意義深い。G20をホストするのは、20年に1度のチャンスであり、この巡り合わせに昭恵氏がイニシアチブをとったということに、各国首脳の配偶者の方々からも賞賛が寄せられている。
前述の海洋環境に関するシンポジウムに参加するため、子供たちを引率したある保護者が、角南氏にメッセージを送ってきたという。「ひとつだけお願いがあります、これを今日だけの一過性のイベントで終わらせないでほしい」と。参加者たちもすでにネットワークを形成して学習を共有しているという。
昭恵氏のみならず、関わったすべての人たちの想いのように、今回のレガシーの発展的継承こそが、たいせつなのではないだろうか。
連載 : 海洋環境改善で目指す「持続可能な社会」
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