現代中国の変化を通じ、49歳の映画監督が描き続ける「人間の本質」

ビン(リャオ・ファン 右)とチャオチャオ(チャオ・タオ)(C)2018 Xstream Pictures (Beijing) - MK Productions - ARTE France All rights reserved

ビン(リャオ・ファン 右)とチャオチャオ(チャオ・タオ)(C)2018 Xstream Pictures (Beijing) - MK Productions - ARTE France All rights reserved

中国の急激な経済成長とそれに伴う社会の変化は、もはやニュースの定番だ。各国企業の中国進出がブームになった2000年代初頭から、ビジネスを通じて中国と接した企業人も多いだろう。「世界の市場」という立場を確立するにつれ、スピーディーかつ柔軟なビジネス戦略を必要とされる場面も日常になった。

とはいえ、あまりにも急激な中国の変化はひとつの問いを生んでいる。中国に暮らす人々がすべて、変化を前向きに受け入れているのだろうか。人々の感情はどのような影響を受けているのだろうか。ジャ・ジャンクー監督が生み出す作品には、その答えのようなものが潜んでいる。

今年49歳になる監督自身もまた、中国の激変を目の当たりにし続けているひとりだ。監督はデビュー作『一瞬の夢』(1997年)と続く『プラットホーム』(2000年)、『青の稲妻』(2002年)でまず、変化に飲まれる地方都市を舞台に、若者たちの青春を描いた。


ジャ・ジャンクー監督

「21世紀を迎えたとき、私はまだ2本しか作品を撮っていませんでした。それからこれまで、中国の現実に目を向けた作品を撮り続けています。今後は時代劇を撮る企画もありますが、基本的には中国の現実に目を向けて、そこに存在する人々の姿を撮りたい。中国の現実はそれほどまでに、映画監督としての私を惹き付けるものがあるのです」

次の『世界』(2004年)では出稼ぎ労働者を、『長江哀歌』(2006年)と『四川のうた』(2008年)では変化によって失われる場所を描き、『罪の手ざわり』(2013年)では現代中国特有の犯罪事件をモチーフに据える。だが、前作の『山河ノスタルジア』(2015年)では一転して、若者たちが成長を遂げた先までを長い時間軸で描いた。

「現代の中国を生きていると、まるで目の見えない人が手探りで何かを探っているような感覚に陥ります。『実際の社会』が実は見えていないのです。そこで、作品で時間と距離を置くようになりました。そうすることで、実際はどういうことだったのかが、よく見えるようになるからです」

最新作『帰れないふたり』もまた、2001年から2017年までの長い時間を描いている。これまでとさらに異なる点は、監督自身が「ラブストーリー」だと明言していることだろう。

「中国の外見的な変化は『長江哀歌』で撮りました。山峡ダムの検閲によって歴史的な町が水没し、多くの人が移民として転居せざるを得なくなる内容です。『帰れないふたり』で描きたかったテーマは、中国の社会変化に伴い、人間の感情も変化する様でした。このため、男女の愛情の変化をメインにしたのです」
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文=オカダカヅエ

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