鶏レバーのサラダ仕立ても同じくらいシンプルで、同じように美味しい。寒くなってくるとメニューに見かけるトリッパの煮込みも、クセがなくさらっとした仕上がりで、目に見えるのはトマト色だけだけれど、それだけではない野菜の風味がたくさん香る。前菜のポーションに、毎度後ろ髪を引かれ、メインで食べればよかったな、じゃなかったらお持ち帰りできないかな、と食べたそばから思う。
夜のメニューにも、内臓料理で必ず食べたい前菜が1つある。仔牛の脳みそバターレモンソースだ。塊で供されることが多いけれど、バラタンではスライスして盛り付ける。その厚みが多分ポイントで、1枚1枚ソースを絡めて食べるあの幸せは、思い出しただけでうっとりする。脳みそと聞くと驚くかもしれないが、たとえば、もし白子が好きな人には、ぜひ食べてみてほしい逸品だ。
仔牛の脳みそバターレモンソース
牛頬肉の煮込みをカリッと焼いて仕上げたメインは、頬肉が実際の厚みは1.5〜2cmほどでも、コクのある味わいから6cmくらいの印象を受ける。けれど、口当たりが軽やかなので重たいとは感じない。量がちょうど良いのもあるだろうし、コク自体が軽やかなのではないかという気がする。ランチで食べても全く負担にならないのだ。
この皿もやはり、シンプルな盛り付けで、それでいて艶やかである。
メインの牛頬肉
内臓ではない珍しい部位も登場する。先日行った時には、ひと晩マリネした豚の腰肉のポワレ、というものを食べた。フランス語で書かれたその部位名は「蜘蛛」を表す単語で、これまでに聞いたことも食べたこともないものだった。肉質が柔らかく、味もしっかりしていてとても美味しい。自分でも料理したみたいと思いながら私が食べているときに、店主も同じものをカウンターで食べていた。
すると、ラケルがやって来て小声で何か尋ねている。店主が「美味しいよ」と感想を伝えているのが聞こえた。その様子からは、この人が美味しいと言えば大丈夫、という信頼の度がうかがえて、いいなあと感じた。
ランチの営業が終わると賄いタイムで、スタッフは昼に出したその日の料理を食べる。店主が食べたものとスタッフのごはんは必ずしも同じではないようだけれど、その日にお客に出すものを店の人たちも食べるというのも、やはりいいなあと私は思うのだった。
連載:新・パリのビストロ手帖
過去記事はこちら>>