夜はアラカルトになるが、ランチは、前菜+メイン+デザートを19ユーロで出している。パリで今どき、3皿を20ユーロ以下で提供する店は数少ない。
メニューは日替わりで、前菜は、テリーヌやサラダ、夏なら冷たいポタージュや魚のマリネ、冬になるとトリッパのトマト煮込みなど、日によって4〜5種類、多い時には7〜8種類が黒板に書き込まれる。
前菜はだいたい食べたいものが2〜3皿見つかってしまい、迷うことが多いが、メインは2〜3種なので選びやすい。魚料理が1皿と、肉料理が1〜2皿、時には肉料理だけのこともある。
私は、この昼のメインに登場する肉の煮込み料理の大ファンだ。厨房を担う店主の奥さんのラケルは、鍋でコトコト煮込む料理をとても大事にしている。煮込むのは、火ではなくオーブン。同じ工程でも、この2つの火の入り方は全然違う。鍋をオーブンに入れ、一定の火力でじっくり。そうして出る汁がまた重要だ。
店主の奥さんであるラケル
皿の上はシンプルなのに、ともに鍋に入れられていた香味野菜、時には根菜の風味を存分に含んだ肉は、口の中に広がる味と鼻に充満する芳香の双方から美味しさが攻めてくる。付け合わせには、お米が盛られていることが多く、それがまた嬉しい。ラケルの煮込み料理には、ぱらっとした長粒米が本当にあう。
実は、もう1つランチには特徴があって、内臓料理が頻出する。メインのチョイスが2品だけの時に、両方ともが内臓料理のこともある。手頃な価格で味わい深いランチメニューを実現するには欠かせない素材の1つなのだろう。
例えば、仔牛のタン、ヴィネグレットソース。歯ごたえのある葉野菜に薄くスライスしたタンが2枚。緑色のソースは周りにオリーヴオイルが滲み出ていて、あとはピクルスと紫タマネギが散らばっている。たったそれだけなのに、とても艶やかだ。緑のソースには酸味を感じた。酸葉が入っているのだろうか? と思ったけれど、尖った酸っぱさではなく、ピクルスの酸味に通じる味だ。
仔牛のタン、ヴィネグレットソース
ほんの少しのこのソースが、皿全体の味を決めている。オリーヴオイルの風味も格別だった。聞いてみると、酸葉の予想は外れて、ソースの中身はコリアンダー、パセリ、バジル、エストラゴン。酸味はヴィネガーによるものだった。