ビジネス

2019.09.10

オルビスはなぜ蘇ったのか。急成長の仕掛け人・41歳社長が抱いた反骨精神

オルビス株式会社代表取締役社長 小林琢磨氏


経営者の苦悩に直面した若手時代

小林氏はポーラ入社後、新流通事業本部内のBtoB事業部へ配属。ホテルや旅館などに納入するアメニティを担当する部署に勤めていた。ポーラの主幹事業を、BtoCのカウンセリング販売による高機能な高級化粧品事業とするなら、BtoBは言ってしまえば“傍流”。そこへ自ら希望して所属したという。

「入社研修で先輩の話を聞いて、面白そうだと思ってしまった(笑)。あとから『お前以外に希望者はいなかったぞ』と言われました。僕がいた頃はわずか20名ほどの部署で、個性的な人が多かった。THREEを運営するACRO社長の御後章など、国内グループ会社のうち4社をBtoB出身者が務めていたこともありました。小さな部署でしたし、商品企画から流通、販売まで一貫して携わることができたからかもしれません」

ホテルなど取引先に商談を持ちかけるなかで実感したのが、当時のオルビスのブランド力だった。

「名の知れたホテルからよく言われたのが、『オルビスを持ってきてよ。オルビスだったら契約する』と。ブランディングを重視するホテルであればあるほど、アメニティ自体の機能性はもちろん、情緒的、権威的価値を重視している。それを客室に置くことで、お客様に価値を感じてもらえる、と。実際にはさほど原価は変わらないはずなのに、オルビスのほうが『イケてるブランド』と見なされていることは、正直うらやましく思っていました」

一方、デフレ経済のあおりをもろに受け、ホテル業界は苦境に陥っていた。不況下で真っ先に削られるのはレジャー予算。国内需要の低迷により、経営破綻する企業が続出した。

「ニュースで『〇〇ホテルが倒産』といった情報が流れると、すぐに車を出して関東近郊の旅館などへ向かいました。商品は既に納入しているので、債権を回収しなければならない。『どうすればお客様に宿泊してもらえるか……』と相談を受けていた支配人の顔が思い浮かぶものの、結局、何もできなかった。ただ倒産するのを見ているしかなかったのです」



経営の最もシビアな一面を目の当たりにした。数々の現場での体験を通して小林氏の中で培われたのは、商品を売る、ということ以上に、どうすれば顧客に価値を感じてもらえるのか。顧客の課題に寄り添い、自社の強みを活かせることはどんなことか、自社商品が、あるいは自分自身ができることはなんだろうか、と考える課題解決発想だった。
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取材・文=大矢幸世+YOSCA 企画・編集=FIREBUG 写真=栗原洋平

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