組織改革のひずみをどうリカバーするか
だが一方で、短期間で改革の成果が表れたことによるハレーションも少なからず起きた。「プロジェクトメンバーが結果として、平均約29歳と若手中心のチーム編成になったことに対し、『若い人がこれからのオルビスを引っ張っていくということなのか』と間違って認識された部分がありました」。
そして、「オルビス ユー」「オルビス ディフェンセラ」ともに、スキンケア部門、健康食品部門の各カテゴリで、これまでのオルビス史上でもっとも売り上げた商品となったことから、両商品がヒットすればするほど、それらに関わらなかった社員たちが、疎外感を覚えるということもあったという。
そこで小林氏が重要視したのが、「全体視点」だ。ヒット商品が生まれるとどうしても開発やクリエイティブが注目されがちだが、売り上げを支えた生産管理やロジスティックスなどにも目を向け、社内表彰や人事制度で包括的に光を当てた。
「当時、数字というファクトをもとに物事を進めていく、『データドリブン』でPDCAを回していた結果、徹底した最適化により部署の縦割り化が起こっていました。自分の業務や部署の数字だけを追いかけて、会社としてどうつながっているのか、どう役に立っているのかという全体視点が大きく欠けていたのです」。
また、それに取り組む人事部門にも意識改革を促した。「これからますますHRは経営戦略と密接に関連していく。どういった人材にどんな考え方で働いてもらえるかが大切です。そのために、より多くの人を巻き込み、いかに情報をオープンにしていくか。なるべく多くの社員が全体視点をもって、意思決定できるような人事施策に取り組んでもらいました」
それを受けて2019年2月に開催したのが、丸4日間、自身のスケジュールをオープンにし、希望者を募って対話を行う「小林の部屋」。「オルビスを成長させたいという思いがある」「そのために自分でやりたいことがある」という二つのルールを設け、「なんでもかまわないから率直に話せる場」として社員たちに参加希望を呼びかけたのだ。すると、日程がフルに埋まっただけでなく、「違う日でもいいから話がしたい」という社員も出てきたという。
「すごくうれしかったのは、みんなやはり、オルビスが好きなんです。それがうまく言語化できていなかったり、好きだからこそ、業績が伸びないことに対して自信を失っていた。けれども不景気の時代、シビアなお客様の目にかない成長してきたというのは、それだけ共感される価値を生み出してきたということ。僕がポーラに入社した2002年頃、オルビスは時代をリードする眩しい存在でした。その本質を潜在的に理解している社員がほとんどですから、歴史に立ち返り、話をしていくと『そう、それがオルビスの良さなんですよね』と語れるようになり、フィロソフィーが顕在化してくるのです」