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2019.09.04

ネットフリックス流イノベーションの起こし方──創業メンバーが20年を振り返る

Gettyimages


ストリーミング、そしてオリジナルコンテンツ制作へ


体験の改善は、郵送とレコメンだけではない。ローなどは、できるだけ早く届けられないか、速度にもこだわった。その結果、ウェアハウスをあちこちに増築することになったが、その間、DVDの返送先を次の顧客にしてはどうかなど様々なトライ&エラーがあったという。

「顧客が観たいと思ってから、手にするまでの時間を少しでも速く」──そんなスピードへのこだわりが生んだのが、ストリーミングサービスだ。

ネットフリックスは2008年にストリーミングをスタートした。だが、すぐに大ヒットになったわけではない。まだスマートTVなどは存在しなかったし、コンピュータをTVに接続する方法を知っている人も少なかった。ユーザーは映画をストリーミングでみるという新しいサービスにすぐに反応しなかった。「どうやって試してもらうのか、その方法を見出す必要があった」とローは語る。

そこで、郵送サービスの加入者に無料で提供することにした。「新しいイノベーションを試してもらうにあたって、無料は1つの方法。ベストではないが、コストを犠牲にすることも時に必要だ」とローは教訓を明かす。

ストリーミングは2年もすると普及を始める。だが、ネットフリックスは平行してイノベーションを続けていた。ラジオがラジオで流れるコンテンツが必要なように、TVがコンテンツがなければただのハコであるように、自分たちには独占的な動画コンテンツが必要だとネットフリックスは考えたのだ。

そうやって2006年、ネットフリックスは独占コンテンツのプロダクションと買い付け事業「Red Envelope Entertainment」を立ち上げた。しかし、「災難」により2年後に閉鎖することに(ローはここでは触れなかったが、パートナーである制作会社のプレッシャーがあったとも言われている)。

ネットフリックスはそれから数年後に、自社コンテンツ制作を再開する。アプローチは、「全員にアピールするもの」もしくは「全員が何か好きなものを見つけられるもの」だ。ローは詳しく明かさなかったが、視聴者が何を好んでいるのかを調べて制作に反映させているという。DVDレンタル、映像ストリーミングときて、オリジナルコンテンツ──映画産業をも変えつつあるネットフリックスだが、この方向性に強気だ。

「2018年には120億ドルを投じたが、今年は150億ドルを投じる」とロー。「ディズニー、ワーナー、パラマウントを組み合わせた額よりも大きい」と胸を張った。

社員割引がない理由

イノベーションの入り口が問題解決なら、解決に当たって重要なのが「顧客と同じ視点で理解すること」だという。ネットフリックスの従業員は、社員割引はなく一般ユーザーと同じようにネットフリックスのサブスクリプションサービスに対価を払って利用しているそうだ。これにより、「自分たちのユーザーがどんな視聴体験をしているのか、顧客サービスにコンタクトするとどのような体験になるのかなどがわかる」とローは言う。
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文・写真=末岡洋子

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