これまで、ファッションとテクノロジーの掛け合わせと言うと、アニメや漫画などの二次元的要素やサイエンティフィックな題材からインスピレーションを受けたケースが多かった。あくまで主語は「ファッション」。それがこの数年で、Apple Watch、ZOZOSUITなど、IT企業やスタートアップの挑戦により、「テック」が主語となったファッションの可能性が拡大しつつある。
「ファッションテックデザイナー」はまだ聞き慣れない肩書きだが、言葉の通り、ファッションとテックの可能性を追求するデザイナーだ。ish inc.が定義する上の図のように、「ファッションテック」を通じて、エンターテイメントやスポーツ、ヘルスケアなど、様々な業界に参入できる可能性を持っている。
だが、その可能性を追求するには、ファッションに対する知識や経験、センスだけでなく、人間の仕草の中に取り入れる操作性(人間工学)やエンジニアリングなどの専門的な知識も求められる。
ファッションテックデザイナーのOlga 写真:砂押貴久
そんな中、日本でも「ファッションテックデザイナー」と名乗るデザイナーがいる。彼女の名はOlga(オルガ)。「テクノロジーをもっとファッショナブルに」をコンセプトに、ソニーやサイバーダインなどをクライアントに持つish inc.の代表取締役を務める。
なぜ彼女はファッションテックデザイナーになったのか? また、彼女の挑戦の先に見えてくる、ファッションテックデザイナーの未来とは──。
ish inc.が定義するファッションテックデザイナーに必要な資質 画像提供:ish inc.
テックが主語となるファッションが受け入れられなかった時代
Olgaは、日本の大学を経て、ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションの大学院へ進学。当時からVRの基礎となる3DCGやパターンメイキングをパソコンだけで製作するなど、いち早くファッションテクノロジーを研究していた。
「ファッションテックの時代が来る」ことを信じて帰国。ファッションブランド「エトヴァス ボネゲ(Etw.Vonneguet)」を立ち上げた。だが、彼女のファッションテックに待ち受けていたのは先行者利益ではなく、挫折だった。
2008年、衣服の動きを物理的にシミュレートする技術「クロスシミュレーション」を使ったデジタル上の3Dファッションショーなどを試みたが、「求められるのは出来上がりの服だったので、考え方や技術などのプロセスに関心を持ってもらえなかった」と当時振り返る。