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2019.09.06 08:30

「技」と「思考」 技術畑出身経営者の「難局攻略法」

富士ゼロックス代表取締役社長 玉井光一


客先で図面を描くのも得意だった。午前中にヒアリングをして、昼休みに部屋を借りてホワイトボードに即興で精緻な図面を描く。午後は商談だが、図面があるから話が速い。その日のうちにサインをもらうことも多かった。
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神業を持つスーパーエンジニア。その強みは、社長になった後も発揮されている。富士ゼロックスは18年11月に複合機の新シリーズの発売を予定していた。しかし、開発途中に、あるメカニズムが機械の中に収まらないことが発覚。金型や部品を全面的に作り直すと発売が半年遅れてしまう。

「他社も同じような能力を持った人たちが同じようなものを開発しています。差をつけられるとしたら、スピード。他社に先んじるには、オンスケジュールが絶対の条件でした」

緊急会議に一緒に入って議論をした。しかし、そう簡単にいい知恵は出ない。いったん帰宅後、自宅にあるCADを操り、金型を20%作り直すことでメカニズムが収まるラフを描いた。これがもとになり、無事に予定通りの発売に漕ぎつけた。
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この新シリーズは好調で、市場への導入にかかわったプロジェクトチームは、社長表彰を受けている。「最終選考である役員が『メンバーの中に玉井さんの名前がない』と言ってくれたのですが、まさか自分で自分を表彰するわけにいかない」

流されずに本質を考える思考も健在だ。それまで同社はローエンドプリンターの投入を続けてきた。社長就任時も、新商品の設計が完成して金型を製造する段階まで進んでいた。しかし、「利益が悪くなる」と土壇場で中止を決めた。

富士ゼロックスは21年3月期に営業利益率10%を目指している。玉井は、「1年前倒しで間違いなくやる」と言い切った。達成への設計図は、頭の中でしっかり描かれている。


たまい・こういち◎1952年生まれ。東京大学の博士(工学)学位取得。東芝を経て2003年、富士写真フイルム入社。富士フイルムホールディングス取締役執行役員、同社チーフ・イノベーション・オフィサー(CIO)、富士ゼロックス代表取締役副社長を経て18年6月より現職。

文=村上敬 写真=苅部太郎

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