短期間で設計を完了させたVRの技術
ブガッティが短期間でマシンの設計を完了させた秘密はVRの活用だ。普通なら自動車の設計・デザインは、まずクレイモデルを製作し、その形状的な雰囲気を確かめながら進められる。しかしアンシャイトは、VRを活用すればあらゆる視点やスケールでマシンの設計を煮詰められるうえ、基本的な設計作業の8割を仮想空間で行うことが可能だと述べた。
これはクレイモデル方式ではできないやり方であり、時間、材料や人件費といったコストを縮小する効果をもたらす。デジタルの世界で設計の大部分を完了させられるようになり、大規模な自動車メーカーよりも迅速に生産に移行できるのだ。
「われわれは数年前からマシンのモデリングで大きな進歩を遂げ、すべてをデジタルで行うようになった。まだクレイモデルが必要だというトップデザイナーがたくさんいることは承知しているが、それはモデリングのためのツールが良くなかったからだろう」とアンシャイトは語っている。
今年1月、ブガッティ・オトモビルCEOのステファン・ヴィンケルマンは、アルザスにロマーノ・アルティオリを招いて意見交換を行うとともに、アルティオリはシロンのテストドライブも楽しんだと伝えられている。
アルティオリは、このときはチェントディエチに関する話題は出なかったと後に語った。先ほどチェントディエチの設計はわずか6か月前に開始されたと記したが、アルティオリの言うことが正しいなら、このマシンは意見交換のあとでプロジェクトが開始されたのかもしれない。
圧倒的パワー
設計プロセスを現代的に簡素化したとしても、決してそのハイパーカーとしての能力が簡素化されるわけではない。
8リッターW型16気筒に4基のターボチャージャーを組み合わせたエンジンは、ベースとなったシロンのそれに100psを上乗せした1600psを絞り出し、その圧倒的なパワーは4本のタイヤを通じてアスファルトに伝達される。加速性能は20kgのウェイトを削ぎ落としたボディの効果もあり、0-100km/h加速で2.4秒、300km/hには13.1秒で到達する。
最高速度は380km/hで、450km/hを超えるシロンには及ばないものの、これは電子的なリミッターが作動するよう設定されているためだ。ちなみにEB110のパワーユニットは、3.5リッターV型12気筒にクワッドターボを装着し、ハイパワーなSS(Super Sportsを意味する)バージョンでは611psを発生。0-100km/h加速は3.5秒だった。
2021年後半にデリバリー開始が予定されるブガッティ・チェントディエチの価格は890万ドル。日本円に換算すれば約9億4500万円もするが、生産予定の10台はすでに売約済みだ。
購入希望者のなかにはきっと、チェントディエチをEB110と同じフレンチブルーにカスタマイズする人もいることだろう。