世界をマインドフルに。日本の叡智「香道」の知られざる実力

日本ならではの雅な世界観を存分に味わえる香道の道具や所作


──香道は社会や人にどのようなメッセージを発しているとお考えですか。

香木というのは病んだり傷ついた木が、自らを蘇生するために分泌した樹脂の化学変化によってできるものです。それが土や空気中の水分等と作用して、長い年月をかけて熟成され、質量も重くなり香木(沈水香や黄熟香等)となります。

その姿は社会や人間にも重なり合う部分があると思います。社会であれば健全であること、人間であれば健康であることはとても大切ですし、成長や若さなども発展のためには必要です。ところが社会も人間も、期せずして傷つくこともありますし、老いたり、困難や病気から立ち直らなければいけない、ということもたくさんありますよね。

そういった清濁すべてを含めて“生きる”ということだと思いますし、地球に存在するものの互恵メカニズムというのか、艱難辛苦ですら森羅万象が互いに作用しながら時間の経過と共に、その有機的な全体の中で意義ある物・事へ昇華されていきます。「そういう風に私たちはできているんですよ」というメッセージを香木から受け取っていると常々感じています。

香を聞くことで、そういった母なる地球の偉大な力を感じ、五感を働かせ活用しながら豊かな心で自分や他者と向き合い、社会や人々が少しでも心穏やかに安寧で幸せであればと思いますし、香道が人々のよすがになればと願っております。



木下薫◎御家流香道 三條西堯雲先代御宗家の薫陶を受け、堅香子会/香親会(主宰) 原田堯薫の元、幼少より香席香元を務める。法曹界や海外の文化人類学者などから一般の若い世代に至るまで、御家流香道の魅力を広く伝えるべく活動。マインドフルネス講師も所属する聞香と香育の研究会を主宰。

文=国府田 淳 写真=佐藤祥子

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