即興なのでどんな言葉が出てくるかも楽しみですし、そこにひねりや、深み、趣のある風雅な言葉を表せた人に尊敬を感じるのもまた楽しみの一つ。
このような場の芸術が室町時代から脈々と行われてきたということにロマンを感じますし、物や道具を使ったり、正解だけを求めるわけでもなく、ただ純粋に薫香が喚起する人々のクリエイティビティで遊びを楽しむという行為が、香道の本来的で奥深い魅力でもあります。
──ちなみに香道は世界にも存在するのですか?
このように香りを作法や時間芸術にまで高めた文化は、日本ならではのものです。そういった希少性という面でも、世界から徐々に注目を浴びるようになってきています。
来春にはWisdom 2.0というマインドフルネスやコンパッションなど世界の叡智が集結する国際的なカンファレンスが日本で行われるのですが、その際、来日されるジョアン・ハリファックス老師ら世界的リーダーたちのために特別な香席を設けることも決まっております。またニューヨークやパリ、オーストラリア、シンガポールなどで香席を楽しんでいただく機会もございました。
日本固有の文化で、しかもマインドフルになれるひと時を実現し、世界の人々の心をより良い豊かな方向へいざなう可能性があるという意味では、今後インバウンドでもアウトバウンドでもさらなる広がりが期待できます。
日本の叡智、香道。その不変なる価値と役割を、人々に実際の香を聞いて深く体感していただく場があることが、重要で光栄な機会だと考えています。
社会参画型仏教、コンパッションに関する世界的権威ジョアン・ハリファックス老師と、Wisdom2.0Japan共同創設者木蔵(ぼくら)シャフェ君子氏も香道を支持。「思考・感情の世界を超えて最も根源的な今・ここの経験が香道にはあるのでは。豊かな心で意識を集中できる、香道の発展に期待しています」と木蔵氏。[協力:日英同時通訳 寺島裕美子氏]
──香道を日常的に感じられるような機会や方法はありますか?
いきなり家で香木を焚くというのは難しいかもしれませんが、香りという意味ではアロマや練り香もありますし、それこそ草木や海の香りでも何でも良いと思います。香を嗅ぐということから、“香を聞く”という感覚にシフトしただけで、感じ方や心への働きかけ方が随分かわります。
実際に嗅覚は他の視覚や味覚などと異なり、感情と記憶を司る脳の扁桃体や海馬に直接繋がっているので、心への影響は絶大です。ぜひ香を聞くということを日常的に取り入れてみてください。またビジネスパーソンに向けた香道のワークショップや、香木より手軽な薫物を自作する子供向けの会なども行なっておりますので、ぜひ一度体験してみていただければと思います。