「動きを伴う瞑想」とも言われる聞香は、香木の貴重な一片を焚き、その香りを鑑賞します。香道の魅力とはどのようなものなのでしょうか。今回は、御家流香道 香親会 幹事である木下 薫氏に、香道の世界観や啓示する精神性、これからの社会や人々との関わりの中で生まれる可能性についてお聞きしました。
──まずは香道の歴史について教えていただけますか。
香道で扱う香木そのものは500年代に仏教とともに日本に伝来し、仏教儀礼の供香として用いられていました。平安時代になると貴族の間で香りの粉末をブレンドして鑑賞したり遊んだりする薫物(たきもの)合わせという文化に発展し、鎌倉時代には武士が香木の種類を当てる闘香という文化なども生まれています。
香道では“香(こう)を嗅ぐ”ではなく “香を聞く=聞香(もんこう)”と表現するのですが、そのように香を聞くという知覚の広がりや表現の洗練が、武士や貴族、文化人の教養として確立していったのは室町時代。
文明11年(1479年)5月12日という日付で、足利義政邸にて六番香合という香木の一片を焚き鑑賞する香会が開かれたという記述が「五月雨日記」にあり、これがいわゆる香道の現れを指し示す最初の文献となります。
──長い歴史の中で、一般の人が嗜むような時代はあったのですか?
香道の場合、香木自体が長い年月を経て生成された化石のような貴木なので、高価かつ稀少です。道具類も全てを揃えることは大変です。香席では香りを多様に楽しむために、時には和歌を詠んだり、それを書にしたためる素養も必要です。
昭和以降、香道をテレビのドラマ作品や特集記事などの映像や文字でも見聞できる機会が増えたことはとても有意義ですが、茶道や華道に比べ、一般的に実体験を楽しむ場は非常に貴重という状況は現代まで続いています。
鑑賞香の会 伽羅「結びし水」御家流香道二十三代宗家 三條西堯水銘名香(逆勝手)正客 龍雲寺住職 細川晋輔氏。香席は凹型に配置され、香元と連衆の間には一定の緊張感がありつつも、心地よい一体感を感じることができる。
ところが近年、物事や時間の流れが速く、また不確定要素の多いこの時代を生き抜くにあたり、メディテーションやヨガ、マインドフルネスを実践される方が急激に増えている中、頭の雑念がリセットでき、呼吸が整い、深い瞑想状態に入れる聞香及び香道の体験が注目を浴びるようになってきました。
グーグルで開発されたサーチ・インサイド・ユアセルフの講師陣や、世界的に著名なマインドフルネスリーダーも香道を体験され、その素晴らしい心への働きかけに深く共鳴していただいております。