関係者たちが口をそろえる「ウルトラクイズ」とは、懐かしの視聴者参加番組「アメリカ横断ウルトラクイズ」のこと。 日本の予選で勝ち残った者だけが夢の切符を手にして世界に羽ばたくことのできる「HAX Tokyo(ハックス トーキョー)」の仕組みには、まさに上記の往年の番組名の例えがぴったりのようだ。
米国プリンストンに本社を置き、グローバルに展開する産業別のアクセラレータープログラムを通じて年間約150社に投資しているベンチャーキャピタル、SOSVインベストメンツ。同社が過去4年間で支援したスタートアップの企業価値は100億ドル以上で、それらによる収益は年間約10億ドルを超えるという。
そのSOSVインベストメンツが住友商事および住友商事グループのシステムインテグレーターSCSKと提携し、2019年7月、アクセラレータープログラム「HAX Tokyo」を日本でスタートさせた。今回ローンチされた「HAX Tokyo」は、日本でハードウェア製品開発に取り組むシードステージのスタートアップの成長を加速させるプログラムだ。
定置網漁法でない「養殖業」モデル
なぜ今、住友商事がハードウェアのアクセラレータープログラムに注目するのだろうか?
そもそもハードウェア領域は商社と相性の良い領域と言えるだろう。住友商事は従来からメーカーや工場などの製造現場との繋がりが強く、製造業と近しい関係にある。また、同社はハードウェアのデジタルトランスフォメーションの加速を2018年発表の中期経営計画でも目標に掲げている。
たとえば、ハードウェア分野においてはこれまでにも工場設備の故障や異常を予知するサービスを提供する、米国のファルコンリーに出資し、デジタルトランスフォメーションによる製造現場の効率化にリソースを投下してきた。
加えて、オープンイノベーションのために1990年代からシリコンバレー、香港にコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)を設立してスタートアップとの共創を模索する中で、CVCのみならず、アクセラレータープログラムへとオープンイノベーションの裾野を広げていく方針へと移行した。
CVCがいわば定置網漁法だとすれば、より早い段階でコミットし積極的にオープンイノベーションを進められるアクセラレータープログラムは、稚魚を育てていく養殖業に近いモデルと言えるだろう。
住友商事の理事でデジタル事業本部長を務める渡辺一正はこう語る。
「住友商事では、日本のハードウェアスタートアップが立ち上がることを支援し、我々のビジネス現場を提案することによっても彼らに貢献していきたい。アクセラレータープログラムでは、シードの段階からコミットすることで、スタートアップの経営陣との関係性を早期から築くことができます。
また、我々は顧客であるメーカーを中心とした大企業とのコラボレーションやオープンイノベーションを狙っています。アクセラレータープログラムでは、スタートアップがまだ自分たちのユースケースがはっきりと決まっていない段階で、大企業が求めるような有効なユースケースを我々が彼らに提案できる余地があります。スタートアップと顧客の大企業の双方にメリットを生みたいのです」
そして、こう続けた。「これらの取り組みは住友商事にとってのR&D活動の一環であり、住友商事の中長期的な利益に繋がるものと思っています」