モンドセレクション最高金賞受賞、ヨーロピアン・ビア・スター金賞受賞、ワールド・ビア・カップ・シルバーメダル獲得──2006年のブランドリニューアル以来、Made in Japanのクラフトビールとして確固たる地位を築いてきた「COEDO(コエド)ビール」。世界20カ国で愛飲される銘酒をつくるのは、誰もが知る巨大企業ではない。協同商事のビール事業部「コエドブルワリー」の30人だ。
もともと有機農業野菜の産直卸売からスタートした同社がビールづくりの研究を始めたのは1980年代後半。当時は四大メーカーだけだったビール業界に、わずか数人で参入しようとしたという。代表取締役社長の朝霧重治は、その理由をこう話す。
「創業社長の先代はベンチャー精神旺盛で、農業を盛り上げたいと考えていました。有機農業の産直卸売は当時、先進的な取り組みでしたが、それだけでは一次産業の枠を超えられない。しかし、良質な素材を加工して丁寧なものづくりをすれば、農業はもっと面白くなる。その答えがビールだったんです」
同社がビールの原料として目をつけたのは、形などの理由で販売できず、収穫量の4割が廃棄されていた規格外品の川越芋だ。94年、酒税法が改正され小規模でのビール製造が可能になると、全国各地で“地ビール”が誕生し、協同商事も96年にサツマイモを使った「小江戸ビール」を発売。翌年には本場ドイツからブラウマイスターを招聘し、5年間かけてビールづくりの職人技を直接学んだ。
観光の土産物として地ビールの人気に火がつくと、一時は生産が追いつかなくなるほど売れた。そこで工場に大規模投資をした。しかし、そのブームは数年で終焉を迎えてしまった。
2016年9月にオープンした東松山市の「COEDOクラフトビール醸造所」。
食品業界は参入障壁が低いが、日本にはビールづくりを学ぶ場がない。多くの業者が知識とノウハウのないままに事業を展開したため、地ビールには「クセが強い」「単なるご当地もの」というイメージがつきまとった。そのうえ価格も高い。結果として、観光客はおろか、地元の住民からも相手にされなくなるケースが続出したのだ。