「私が副社長に就任した2003年、ビール事業は利益がなくて、市場環境も最悪。一時は撤退も考えました。しかし、やり方を変えればもっと面白くできると信じて覚悟を決めました」
それには理由がある。協同商事は、事業の出発時からビールづくりを科学的にとらえて研究を重ね、ドイツから伝承した技術に、良質な素材の仕入れルート、十分な設備も有していた。地ビールでありながら、確かな品質。駐日ドイツ大使館が主催するパーティでの御用達として「小江戸ビール」を使用していたことは、それが事実だと証明していた。
地ビールからクラフトビールへ
課題は、地ビールのイメージをいかに払拭するか。抜本的にやり直す必要を感じた朝霧は、「小江戸ビール」全商品の終売という大きな決断をする。そして新たに「クラフトビール」という概念を提案したのだ。デザインも都会的で上質さを感じられる「COEDOビール」に全面リニューアルした。
「本質を見つめ直しました。ビールには、小規模な醸造所で職人がつくりだす上質で豊かな味わいがあって、海外では昔から地域の人たちに愛されてきました。豊かな食文化としてビールの面白さを伝えようと思ったんです」
日本的な繊細さとバランスを兼ね備えたコエドは高評価を受け、世界の賞を次々と受賞。この実績を武器に、国内でもプレミアムビール市場の立ち上がりとともに販路を拡大し、地元川越はもとより、全国にファンを増やしていった。
朝霧は現在、醸造所の見学ツアーやビール祭りなどのイベント、異業種とコラボレートした新商品の開発も手がけている。すべては「ビールの面白さを知ってもらうため」。そう語る彼の名刺には「ビール伝道士」の肩書がある。
「この地でないとできないもの、我々でなくてはできないことに価値がある。目指すのは、100年後も地域の人たちに愛される存在です」