レオ様とブラピの初共演。ラスト13分、「そうきたか」と膝を叩く

落ち目の俳優を演じるレオナルド・ディカプリオ(左)とそのスタントマン役のブラッド・ピット(右)


もう1人の主役、シャロン・テート

この映画には、リックとクリフの他に、もう1人の「主役」がいる。リックの家の隣に住むシャロン・テート(マーゴット・ロビー)だ。シャロンがロサンゼルスの街を闊歩するシーンは、とくにタランティーノ監督は念入りに撮影している。当時の街をそっくりそのまま再現し、シャロンをまるでキュートな「時代の女神」のように描写している。



シャロンは、ウエストウッドの映画館に、自分が出演した映画がかかっているのを見つけ、一瞬ためらいながらも、自分はこの映画に出ているのだが観られるかと、窓口の女性に問いかける。なかなか印象的なシーンだ。彼女の無垢な自己顕示が、観ていて微笑ましい。

映画はこのシャロンの存在によって、スリリングに展開していく仕掛けになっている。冒頭で触れたシャロン・テート事件を巧みに利用して物語がつくられているからだ。1969年8月9日のその時に向かって、散りばめられたハリウッドのエピソードが収束されていく。

かなり長尺の作品であるのにまったく飽きることがないのは、個々のエピソードが面白いこともあるが、このシャロンをめぐってサスペンスが組み立てられていることに負う。

映画会社の惹句では、「ラスト13分。タランティーノがハリウッドの闇に奇跡を起こす」とあるが、ややこれは方向違いにしても、「なるほど、そうきたか」という驚きはある。観ていて、思わず呆気にとられて、膝を叩いてしまった。

監督のクエンティン・タランティーノは、1993年に「レザボア・ドッグス」でデビューして、この「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」が、まだ9作目。「キル・ビル」(2003年)などのヒット作はあるものの、どちらかというと映画通から高い評価を得てきた監督だ。レオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットの初共演が実現したのも、彼の作品だからという理由が大きい。



タランティーノは、かねてから10本撮ったら監督を引退すると公言してきたが、「もし、この作品が好評だったら、これで終わりにするかもしれない」と、今年のカンヌ映画祭で語っていた。

これまでの作品にはない軽妙な面白さもあるので、これが彼の引退作品になる確率は、案外、高いかもしれない。

連載 : シネマ未来鏡
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文=稲垣伸寿

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