レオ様とブラピの初共演。ラスト13分、「そうきたか」と膝を叩く

落ち目の俳優を演じるレオナルド・ディカプリオ(左)とそのスタントマン役のブラッド・ピット(右)

落ち目の俳優を演じるレオナルド・ディカプリオ(左)とそのスタントマン役のブラッド・ピット(右)

シャロン・テート事件は、当時のハリウッドを震撼させた、まるで映画のワンシーンのような猟奇的犯罪だった。1969年8月9日、新進の映画女優だったシャロンは、ロサンゼルスの自宅で、一緒にいた3人の友人たちとともに、狂信的なカルトを信奉する3人組によって殺害される。

シャロンは、前年に映画で共演したロマン・ポランスキー監督と結婚したばかりで、妊娠8カ月の身重。犯人たちは、お腹の子供だけは助けてほしいと懇願するシャロンをナイフで16箇所刺し、惨殺した。

事件は、犯人たちが信奉していいたカルトの「教祖」チャールズ・マンソンが、殺人を教唆したとして逮捕され、カウンターカルチャーが花開いた60年代末の「陰画」として、人々の記憶に刻まれた。

映画「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」は、そんなシャロン・テートの屋敷の隣に居を構える、盛りを過ぎたテレビ俳優リック・ダルトンと、そのスタントマンとして彼の身の回りの世話までするクリフ・ブースが主人公だ。落ち目の俳優を演じるのはレオナルド・ディカプリオで、スタントマン役はブラッド・ピット。映画初共演の2人が相棒としてガッチリ組んだ、バディものの作品と言ってもいい。



友情を築いてきた2人だったが

物語は、シャロン・テート事件の8カ月前から始まる。1950年代にテレビ映画で一世を風靡したリックは、ハリウッドで映画俳優としてキャリアの再生をはかろうとしていた。プロデューサーに売り込んで、敵役でもこなそうとするリック。そんな彼の専属スタントマンであるクリフも、なんとか彼に便乗して仕事にありつこうとしていた。

ハリウッドで生き抜くことに神経をすり減らして、酒に溺れるリック。対照的に武闘派のクリフは、自身に降りかかる「妻殺し」の噂などもどこ吹く風で、マイペースで我が道を行くと決め込んでいた。

互いの性格が補完し合い、長年に渡り友情関係を築いてきた2人だったが、プロデューサーの勧めで、リックは単身で、いわば「都落ち」の、イタリアに出かけマカロニ・ウエスタンに出演する。彼の地で女優と結婚して戻ってきたリック、クリフとの関係にも変化が訪れるのだった。

映画は2時間41分の長尺だが、監督のクエンティン・タランティーノは、このリックとクリフのコンビを中心に、当時のハリウッドの表裏のエピソードを、虚実綯い交ぜにしてぎっしりと作品に詰め込んでいる。まさに「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」だ。

例えば、TVシリーズ「グリーン・ホーネット」時代のブルース・リーと、スタントマンであるクリフの対決シーンなどは、思わず笑みが漏れる痛快なシーン。また、落ち目のリックが、幼い少女の役者から、自らの演技についてやり込められタジタジとなったりする、さもありなんという場面も数多く登場する。



「プレイボーイ」誌の創業者ヒュー・ヘフナーの豪邸で開かれるパーティーでは、ポランスキーとシャロン夫妻の他にも、俳優のスティーブ・マックイーンなども登場し、彼の出演作である「大脱走」のパロディシーンなども流れる。まるでタランティーノ監督が、「ハリウッド69年」という枠のなかで、縦横無尽にエピソードをつないで、遊んでいるようにも思える。まさに、映画愛に溢れたタランティーノ監督の面目躍如たる作品だ。
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文=稲垣伸寿

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