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2019.09.02 11:00

地方でビジネスをするということ。それは、ヒトとしての生き様を示すこと

1999年に新卒で、ITと会計によるコンサルティング会社、ビジネスブレイン太田昭和へ入社。その後、ビジネスプランコンテストを通じてインテリジェンス(現・パーソルキャリア)から資金提供を受けた人材紹介のエクスペリエンスへ、創業と同時に参画。大学時代の仲間等とともに立上げを行なった。それから4年半の後に、株主であるインテリジェンスによる経営統合を機に同社へ転籍。

株式会社ツルタの代表取締役社長を務める堀内敏男の、大学卒業からの約5年間をまとめると、こうだ。ビジネスの最前線で戦うことを通じて、堀内がビジネスパーソンとしての基礎を鍛えてきたことがわかる。

「単月で黒字を出せた時、こんなにお酒が美味しいんだと思った」
「累積損失を一掃した時、仲間とともに涙した」
「インテリジェンスの経営統合の打診があった際は、MBOしようと考えていた」

こんな言葉からも、四六時中、仕事に夢中になって駆け抜けてきた様子が想像できる。

しかし、刺激的な生活に突然別れを告げて、結婚を機に妻の家業に入り、地元山梨に戻ったのは28歳の時。平社員からスタートして12年後、創業社長の義父から引き継ぎ社長に就任した。

現在は、山梨県でカー用品の販売店を5店舗、飲食店1店舗を運営する、株式会社ツルタと、インターネット通販事業を営む株式会社ウェブベンダーの代表を務める。

「ビジネスをするということ。その本質は都会と地方で、何も変わらない」。その言葉の意味することとは、一体何なのだろうか。

数字至上主義だった、東京時代


「仲間と離れることは、正直寂しかった」

これは、山梨に戻ることになった時の堀内の率直な気持ちだ。でも、会おうと思えば、離れていてもいつだって会える。会わない相手は、近くにいても会わない。場所は関係なくて、意志の問題だということに気づいた。

それから、もう一つ。事業とは誰かに価値提供するための手段にすぎない。東京だから難しい、地方だから難しいということは、言い訳であるということにも気づけたのだ。

「一人ひとりがどう仕事を楽しんで、どうキャリアを積み重ねていくか。全てはこの問題に帰結すると思うんですよね」と堀内は本質をズバリと捉える。

腰を据えることで得た専門性、それを活用し顧客に価値を発揮すること。これはどこのマーケットにいても同じく求められることだ。

とはいえ、元々そんなにバランス感覚の良い考えの持ち主だったわけではない。インテリジェンスで中間管理職を担っていた時代を振り返り、今やお恥ずかしい話ですが、としながら、「当時は、パフォーマンスを上げられない奴はダメだと思っていました。それに、一時ですが、メンバーを自分のコピーロボットにしようとしていたこともありましたし」と明かした。

しかし程なくして『美点凝視』という言葉に出会う。『相手の短所や欠点に目を向けるのではなく、長所や徳性に意識的に目を向けること』という意味だ。良いところもダメなところも持ち合わせているのが、人間。全部を受け入れた上で、どう相手の良さをどう引き出していくのか。堀内にとっては、目からウロコの考え方だった。

役職とは役割。社長としての基本姿勢をつくった出来事


そして、とある年上の部下を受け持ったことでも、堀内のマネジメントスタイルは大きく変化する。「仕事に対するスタンスがプロフェッショナルで、キャリアコンサルタントとしても敏腕。圧倒的な成果を出す方の上司を担うことになったんです」。

7歳年上のその人は、実務経験も人間的な経験も自分よりも当然、格上。どう向き合おうかという時に「年齢は関係ありません。気にせずに関わって欲しい。役職は役割ですから。役割の上司としてのあなたのことを信じています」と言われた。

かっこいい考え方だと思った。人間としては何も変わりはない、たまたまその役割を担っただけ。この考え方は、株式会社ツルタで社長に就任する際に大きな励ましになった。

東京から戻ってきた創業社長の娘婿が、社長を引き継ぐ。この事実だけでも、「突然現れて偉くなっていくんだろうな」「東京のやり方を持ち込んでくるだろうけどついていけるだろうか」などと、職場のみんな戦々恐々としているはずだ。

だからこそ、「社長という役割はあるけれど、一緒に仕事をする仲間だよ。一緒なんだよ」という思いで就任し、周囲とかかわった。



社内だけではなく、社外とのつながりもまた、堀内に影響を与えた。約6年在籍し、1年ほど理事長も務めた青年会議所の運営だ。地域貢献について考え活動する団体であり、会員による会費で運営が賄われている。利害関係のない団体だけに、所属している理由はそれぞれに違う。だから、何か号令をかけたところで全員が一気に動くわけでもないという、難しさを抱えていた。

「私がそれはダメだろうと思うことも、他の人にとっては問題なかったりする。何がダメなのか、その理由をきちんと整理して伝えなければ、絶対に人は動かない」。会社であれば、命令という形で強引に人を動かすこともできるかもしれないが、それでは通用しない。「思いを伝え合うことの重要性を知りましたし、思いで束ねられた相手とは、損得なしで共鳴し合えることも、ここで教わりました」。

一人ひとりのアイデアこそ、企業価値の差を生むという信念


ツルタでの話に戻そう。

堀内の社長就任に伴う社内の変化については、カー用品事業部部長の上野圭介がこう語ってくれた。上野は、高校卒業以降同社に務めており、創業社長時代の経営についてもよく知る人物でもある。

「堀内さんがきてから現場のスタッフも、直接社長に話をする会社になりましたね。これまでは、社長の号令をみんなが実行する会社だった。でも今は、バイトスタッフが、自分の気づいたことを店長に話すし、店長が社長と話して実現していくことがたくさんある。それは大きな変化だと思います」



トップダウンで成長の道筋をつけた時代を経て、一人ひとりの声を集め、ボトムアップで成長する時代へと進んだということなのだろう。そこには、堀内の明確な思いがある。

カー用品の業界は、実は非常にアナログ。機械化しにくく、接客にメンテナンスに、実際に人が動く部分が大半。だからこそ、顧客の役に立てる仕事の仕方というものも、きっともっと沢山あると考えている。「人の工夫次第で、差が出るんです。だからこそ、一人ひとりの知恵が必要。相手の役に立とうという気持ちが、価値の差を生むはずだから」

また、一人ひとりの気持ちの変化は、実際の行動へと反映されている。例えばカーショップツルタ西桂店の一角に作られた待合室。年配のお客様・お子様連れのお客様が、買い物中に休憩できる場所を作りたいという、スタッフのアイデアから実現したものだ。「これくらい予算が必要ですが、是非作りたいと言って、費用を算出した上で相談に来てくれたんですよ」と、堀内は嬉しそうに目を細めた。

そして、こんな展望を語ってくれた。「お客様のことをよく見て、知恵を出して。お店の改善を続ける。みんなと一緒に、ツルタってすごいらしいぞって言ってもらえる会社にしたいです」。山梨でトップシェアを獲った後、全国でも注目されるカー用品店を目指す。

そのためにも地道な行動は決して怠らない。日々の顧客との会話、街での立ち居振る舞い。ビジネスとプライベートという分かれ目はなく、様々なつながりの中で深く濃く人間関係が紡がれていくという特性は、地方特有のもの。だからこそ、どんな場面でも自身の人間性が問われるという思いがある。

会社という素晴らしい器を生み、育ててくれた義父である創業社長や共に成長を実現してきた諸先輩社員への感謝をしっかりと示していくためにも。

「割り切った対応や誤解を受けるような発言。そういうことは一切できません。人間として物事の道理を間違ってしまったら、絶対にダメだから」。相手を思い、信頼を紡ぐ。その関係が広がれば、結果としてビジネスも広がっていく。堀内率いるツルタの姿勢は、一人ひとりの生き様そのものなのだ。

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