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2019.09.02

若きホテルプロデューサー、龍崎翔子が探し求める「最果ての旅のオアシス」 #30UNDER30

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「渇き」を潤す、オアシスをつくる

なぜ、龍崎が新たなムーブメントを引き起こす立役者の一人となり得たのか。背景にあるのは、多くの人が見過ごすような、日常生活の中で感じるわずかな不便や疑問でも課題ととらえて、解決策を導き出そうとする力だ。彼女は、それを「渇き」と表現する。

「誰しも、我慢できないことはないけど、もうちょっと良くなるといいな、と感じることがあると思います。私は、その“渇き”が多くの方々に共通するものだと思っていて、それを解決して潤すことに大きな意味があると感じているのです」

その「渇き」は、龍崎が若くしてホテル経営に身を乗り出したきっかけでもあった。子どものころ、家族でアメリカ横断旅行をしたことがある。毎日、車で移動して、いろんな地域の文化や生活を目にしてきた。しかし、どこ行っても、ホテルの中に入ると、見える景色は画一的だった。同じ街はひとつとしてないのに、これでは日本にいるのと変わらない。そこで、その土地の魅力を感じられるホテルをつくりたいと、ホテル経営の道を志したのだ。

さらに龍崎は、宿泊客がホテルに滞在している間だけでなく、旅の思い出をかたちにするところにまで目を配る。

「HOTEL SHE, OSAKA」には、グレー色を基調に、「#SHE#SHE#SHE…」と白いラインがひと筋だけ引かれたシンプルな外壁がある。一見ただのコンクリート壁のようだが、実はこの外壁は、多くの宿泊客が記念写真を収めるための撮影スポットとして愛されている。宿泊客のSNSを覗けば、思い思いの格好で撮影された写真が並び、まるでファッション誌のスナップ写真のようなフォトジェニックさだ。


「HOTEL SHE, OSAKA」のシンプルな外壁

「ここで写真を撮ると、自分が旅の主役になれるんですよ」と龍崎は言う。「この壁のグレーは、邪魔にならないんです。お客様の多くは、素敵な旅を過ごそうと、特別な服装に身を包んでいらっしゃいます。SNSでの表現の仕方は様々ですが、どんなスタイルや色彩でもマッチするように考えてつくりました」

ホテルに満足してもらうことは大前提。そのうえで、宿泊客が旅の感動を表現するところまでアシストするのだ。龍崎が手がけるホテルのSNS公式アカウントでは、一般的なホテルの外観や設備の商業写真よりも、宿泊客自身がスマートフォンで撮影した写真が目立つ。これは、新たな宿泊客が自分のカメラで写真を撮るときの再現性を考慮してのことだ。

「自分の見たものと、写真に収めたものとが違ってくると、体験そのものが陳腐化してしまう。すべては思い出を大切にするための仕掛けなんです」
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文=伊勢真穂 写真=小田駿一

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30 UNDER 30 2019

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