週末のパリの花屋に「男性客」が多い理由


花は文化的な豊かさと連動している

とはいえ、パリと日本にはまだ差があります。その差はなにかと考えてみると、それは文化的な豊かさではないかと思います。

パリも東京も大都市ですが、例えばパリでは、携帯を見ている人がとても少ない。東京ではカフェでもスマホを覗き込んでいる人が多いですが、パリではみな、おしゃべりしかしていない。昔ながらでリアルな人間らしさを残そうとしているように感じます。

日本も田舎へ行けばそうですが、時間の流れがゆっくりしていると、自然と周りに注意が向き、植物やアートなどを愛で楽しむ余裕が生まれます。例えば僕の故郷の佐賀では、数人が集まって食事をしていれば、自然と器の話になっていきます。

花を楽しむには、そういう「余計なもの」を楽しむ意識が必要です。なぜなら、花を飾ろうと思ったら、花屋へ行き、花を選び、帰って活けて、しばらくは水をかえたり世話をして、枯れてしまったら片付ける。もちろん汚い部屋に飾るわけにはいかないので、掃除もすることになるでしょう。そうした手間暇かかるものを楽しめるか。花は文化度を測るバロメータであるような気がします。



花とワインと刃物と男

さて、再び花と男性の話です。昔、青山に一号店を出した頃、毎週日曜日の朝に近くにある紀ノ国屋で買い物をしたあと、店に来て、一輪の花を買って帰るお客様がいました。

声をかけてお話をすると、しばらくヨーロッパに駐在をしていた方でした。ワインに非常に詳しく、毎週ワインの話を聞かせていただきながら花の話をしていたら、ある日、帰りがけに、「1本あげるよ」と僕にワインをプレゼントしてくれたのを今でもよく覚えています。

僕は、ワインと花は似たところがあると思っています。ワインは昔、そこまで種類が豊富ではなく、赤と白、あってもポートワインくらいしか日本に入ってきていなかったのが、日本の市場の成熟に伴い、ボルドーやブルゴーニュといった地域だとか、シャトー、ヴィンテージ、オーガニックなど、実に多くのバエリエーションが揃うようになりました。

花も同様に、ただ「花が好き」ではなくて、「バラが好き」という品目に目を向けるようになり、さらには「バラの〇〇が好き」と品種になっていく。もっといえば生産者までこだわって「あの人が育てるバラの香りが良いよね」とか「この時期になるとあの人のバラの色がきれいね」など、色々な楽しみ方が広がっていく可能性があると考えています。

また、もう一つ、ワインと花が似ていて、男性と相性がいいのではと思うのが「刃物」というキーワードです。ワイン好きの男性は、ワインオープナーにこだわり、例えばフランスの「ラギオール」のものなどを自分用に購入し、ワインにまつわる時間をより楽しんでいます。

実は私たち花屋では、花の鮮度のためにはハサミを使うのではなく、ナイフで断面積を広く、かつワンサイドから導管が潰れないように切るとよいとされています。店舗に立っている時、男性にそんな話を教えると、「ナイフかっこいいね!」と、ご自分用にフワラーナイフを購入される方も多いです。



日本にワインが浸透していったように、これからは花の文化が日常的にもっと浸透していってほしい。それを引っ張っていくのは男性かもしれないと思っています。

文=井上英明

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